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2017

アイアムアヒーロー

2015年 / 日本 / 監督:佐藤信介、原作:花沢健吾 / ホラー / 126分
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牛もウナギも国産にこだわるなら、ゾンビも国産にこだわりたい!
【あらすじ】
ゾンビが出たので逃げる。



【感想】
ゾンビ物を観るとき、どうしても金字塔である「ウォーキング・デッド」からマイナスして考えるという方法をとってしまう。それぐらい「ウォーキング・デッド」はすばらしいし「ウォーキング・デッド」以外のゾンビ物は観る必要はないとすら思っていたのだ。

だがですよ、そんなゾンビ業界に一石を投ずる作品。たいへんがんばっていたんじゃないでしょうか。この映画もゾンビが現れてパニックになって逃げるというスタンダードなゾンビ物。だからこその難しさというのはあるんでしょうねえ。もう大半のことは、やり尽くされているので。だが、この映画はちょっと変わったゾンビ物ではなく正統派のゾンビ物を目指している。挑戦してるなあ。


◆主人公「鈴木英雄」の丁寧な描き方
大泉洋さん演じる漫画家アシスタントの鈴木英雄がすばらしいですよ。名前がまたいいですね。鈴木という平凡さの極みにある苗字に対し、名前の英雄(ひでお)は英雄(えいゆう)と読める。だが、本人には英雄らしさはどこにもない。苗字のように平凡な鈴木君が自己の限界を乗り越えて英雄になる成長物語としても捉えられる。

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大泉さん以上のはまり役はいないんじゃないでしょうか。ただごとならぬ凡人感。役者が凡人を演じても、どこかすごさを感じたり、容姿の良さがネックになって、ちょっと一般人とは違う雰囲気が出てしまう。だけど、大泉洋さんの持っている「近所のお兄ちゃん」という佇まいがいい。すごさをまったく感じさせないというのは、かなりすごいこと。威圧感・オーラゼロにて生まれながらの平社員顔、それが大泉洋だ! 

褒めてます。本当に。悪口ではない。

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英雄と同棲している徹子(片瀬那奈)が英雄の駄目さをより引き立てる。英雄は安月給の漫画家アシスタントで、一向に芽が出る様子もない。徹子はパンツ一丁でベッドに寝っ転がり、テレビを観ている。同じ部屋にいる英雄のことなどなんにも気にしてない。この空気がいいですね。

閉塞感のある安アパートでの生活で、色っぽい雰囲気になることもない。光の翳り具合も、二人のうらぶれた生活を象徴する。テレビでは駄目男について放送しており、徹子がボリュームを上げてみせるさまがまた嫌な感じでいいですね。現状にイラつく女の様子が実にねえ‥‥。こんな生活いやあ!

徹子が刺々しくなるのもわかる。34歳という年齢からくる焦り。夢ばかり語りまったく売れない英雄。英雄が趣味のショットガンを構えて遊んでいるのを見ると、本当にイラつくのだろう。おまえ、そのショットガンを売って家賃にあてろよ、と徹子は英雄にショットガンを押し付けて家から追い出してしまう。


◆邦画での銃のリアリティ
邦画に銃を持ち込むというのは難しいんでしょうねえ。どうしても日本人が銃を扱うとリアルさに欠ける。アメリカのように、そこにも銃、ここにも銃というわけにはいかない。幸運なことですが、日本人にとって銃はあまりにも日常から遠い。でもそうなると銃を巧みに操る日本人のリアリティが確保できない。そこで、趣味がクレー射撃という設定になったのだろう。苦しいけれど、でもこれが一番説得力のある解決法かもしれない。

英雄に銃をもたせて部屋から追い出すのも、ストーリー上やむを得ずの強引さではある。英雄が「銃の使用許可証がないと銃刀法違反になっちゃうから‥‥」と許可証をもらうところは笑ってしまった。ケンカの最中にそれ? って思うが、英雄の真面目さがまたいいんですね。


◆新しいゾンビ像
この後の徹子のゾンビへの変身ぶりが怖くてねえ。今までのゾンビはおおまかに分けて2種類あったように思う。「ウォーキング・デッド」や「バイオハザード」のような、ゆっくり動くスタンダードなゾンビ。「ワールド・ウォーZ」「28日後...」のような走ったり壁を登ったりという、アスリートのようなゾンビ。この映画のゾンビは生前の習慣が残っており、生前の習慣にちなんだセリフをしゃべったり、行動をとるのが面白い。行動に多様性があっていいですね。いいゾンビ!

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観衆に拍手を求める高跳びゾンビはキャラが立ってましたねえ。この映画ではゾンビではなくZQN(ゾキュン)といいます。人間がZQNに咬まれると、しばらくしてZQNに変身してしまう。黒い血管が浮き上がり、目が血走って濁りながら変身していく様子は迫力がありました。特殊メイクは藤原カクセイさんが担当されたそうですが、すばらしかったですね。今までは「ゾンビは洋物に限る」とアメリカ産ばかり持て囃されてましたが、国産だっていけるじゃないかあ! ムシャムシャ。

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街中がパニックになるというお約束の描写も臨場感がある。「ワールド・ウォーZ」はこの場面がとても良かったですが、この映画でも車が突然突っ込んで来たり、大通りに出ると群衆が押し寄せてくる様子がかなりの迫力。ここは本当にいいですよねえ。ずっと観ていたかった。

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有村架純さん演ずる女子高生ゾンビ。理由はわからないが完全にはZQN化しないという。かわいいから?

うーん、続編ではこの子からZQNの抗体が作られたりするのかな。半分ZQNになってしまうものの、完全に凶暴化するでもなく怪力を得る。彼女は英雄を助けてくれるものの、後半は何もしないで寝てるだけ。その何もしない彼女を見捨てないというのが英雄の人間性の証左なのだろうか。

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◆ゾンビ映画の王道的展開
お約束となるコミュニティのカリスマ的支配者の独裁、権力をめぐる内部抗争などもあります。まあ、これはこれでという。ただ、時間がないから駆け足なように感じた。

で、この人がZQNになったとき自分の目を潰してしまうのだけど、なぜ目を潰したまま人間を追って来られるかがわからなかった。高跳びZQNが脳がないのに高跳びをやっているのも、ちょっとおかしいような。半分頭が潰れてるだけで脳はあるのかな。細かいとこが気になる。

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◆平凡な英雄が、ヒーローへ
ロッカーに隠れていた英雄が恐怖を乗り越えて仲間を救いにいくところは熱い展開でした。最後の闘いまでショットガンを使わずに残しておいたのも、盛り上げるためによかったように思います。「は~い」と、気の抜けた感じでショットガンを撃つところは新しいヒーロー像を感じた。

そういえば、コミュニティの支配者からショットガンを渡すようにいわれたとき「免許のない人が持つと銃刀法違反になっちゃうから‥‥」という断りの文句には笑ってしまった。自分の身を守りたいからという理由ならわかるが法律違反て。この緊急時に、おまえはなにをいってるんだという。そのズレ方が英雄の良さでもある。

最後、英雄はバッタバッタとZQNを撃ち倒していくが、ZQNたちがずいぶん気を遣っているようにも見えた。英雄に一斉に襲い掛からずに、時代劇の斬られ役のように一体ずつゆっくりやられていくという。さっきまでのやる気はどうしたんだ、君たち! やっぱり所詮はゾンビだからなあ。やる気が続かないのかなあ。


映画化された時点では原作が完結してなかったので続編はあるのでしょうか。続編も観たいと思いました。これほど丁寧にいい作品を作っても、ゾンビ物としてみるとやはり「普通だった」と思ってしまったのも本当のところです。それほどにゾンビ物で新しい何かを出すのは難しいように思えます。

そういえばラーメンズの片桐仁さんも売れっ子漫画家役でチラッと出てましたね。ZQNになってほしかった。弱そうだけど。カズレーザーさんもZQNに混じっていますね。もしまったくゾンビ物を観たことがない方で、グロさに耐性がある方は是非是非。片瀬那奈さんがまあ怖いですよ。


25
2017

ヒメアノ~ル

2016年 / 日本 / 監督:吉田恵輔、原作:古谷実 / サスペンス / 99分
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街で森田剛を見かけたら、走って逃げます。怖いよおおおお。
【あらすじ】
彼女ができて喜んでいたらストーカーに狙われました。



【感想】
キャッチコピーの「めんどくさいから殺していい?」って面白いなあ。殺すほうがよっぽどめんどくさいと思うけど。森田剛さんのサイコパスものです。とんでもなくエグイ描写が満載。もう観たくないよ‥‥。

漫画「稲中卓球部」の古谷実さんの同名漫画が原作。原作未読です。監督は「麦子さんと」の吉田恵輔監督。

ギャグ漫画である「稲中」と、笑いもあるいい話の「麦子さんと」の組み合わせ。笑える映画だと勘違いして「ヒメアノ~ル」を観ると、えらい目に遭いますよ。遭いました。エグイ描写で具合悪くなったもの。ラブコメかと思っていたら、40分経ってようやくタイトルが表示されたと思ったらサスペンスホラーに豹変というとんでもない構成。いやあ、怖かったですねえ。なんだろうこの怖さ。

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ビル清掃会社のアルバイト岡田(濱田岳、右)。自分の人生はこのままでいいのだろうかと悩んでいる。ありがちな悩みだし、悩んでいるといっても上辺だけに見えて、何か具体的な手立てを講ずるでもない。そこら辺にいるウダウダした人の一人なのだ。自分の悪口書いてる気分。やめて。

またこの職場が嫌な感じに荒んでるんですよね。岡田のミスに対しての職人の怒り方とか、先輩である安藤(ムロツヨシ、左)のその場しのぎで投げやりな謝罪の様子とか。観ていると徐々にエネルギーを奪われていく‥‥。

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岡田は人生の漠然とした不安感を安藤に相談する。安藤はかなりいっちゃってる人なのだ。だが、ときに哲学的なアドバイスもする。彼は仕事や夢などはどうでもよくて、カフェ店員のユカ(佐津川愛美)に恋をしていることで自分の心を支えている。

カフェでユカを盗み見る二人だったが、岡田はそこで高校の同級生だった森田(森田剛)を目撃する。役名と役者名が同じというのは偶然にしても怖すぎるわ。久しぶりに再会した岡田と森田はぎこちなく挨拶を交わし、連絡先を交換する。このときの森田は意外と丁寧なんですよね。「岡田君?」と、君付けで普通に話しかけてるし。

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この森田がまあ、本当にヤバいやつでねえ。森田剛さんはよくこの役を引き受けましたね。すばらしかったですよ。すばらしくヤバかった。彼も安藤同様、ユカに想いを寄せていた。だが、それは健全なものではなくユカのストーキングをしている。森田と岡田が話しているのを見たユカは、後日、森田のストーキングについて岡田に相談する。岡田は、それとなく森田を諫めるために岡田を飲みに誘う。

二人が居酒屋で飲んでいる場面がいいんですよね。森田は心ここにあらずという感じで、近況を訊ねる岡田にも適当に返事をしている。ところが岡田が「まあ真面目にやってればなんとかなる」みたいなことをいった途端、豹変するのだ。

俺たちみたいな底辺が何をやったって変わらない。もう人生なんて終わっている。いいかげん、自分たちが底辺であることに気付けよみたいなことをいう。これは彼が挫折し、何度も自問自答を繰り返してきたことなのだろう。だから、するりと言葉が出る。

森田はカフェに入り浸ってユカのストーキングをしていることについても嘘をつく。カフェに行ったのは一度だけという。そのくせ岡田の先輩の安藤を、カフェでよく見かける気持ち悪いやつと罵る。岡田が発言の矛盾を指摘しても、悪びれることなくとぼける。怖いんですよ、これ。

用意周到な嘘ならいいが、あまりに何も考えてない思いつきの嘘を平気でつく様子。彼は世界に絶望しているし、小さな嘘なんてどうでもいいのだ。この時点では岡田は森田が危険な人間だと気づいてはいない。ただ、微妙な違和感は感じている。

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ユカは森田でも安藤でもなく、なぜか岡田に一目惚れ。正気か。目を覚ませ。岡田はそんなにいい男でもないぞと思いました。

頭がおかしい安藤のこともあり、岡田とユカは隠れて交際することに。安藤は安藤で、なかなかねえ‥‥。岡田がユカと付き合ったら「岡田君のこと、チェーンソーでバラバラにしちゃうかも!」って。病院行ってお薬だしてもらって。

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その服どこで買うの。二つに引き裂かれる安藤の心の表現なのかな。

岡田とユカの交際がショックで、職場を無断欠勤した安藤を岡田が訪ねていくと、部屋にはチェーンソーが買ってあるという。ははははは。安藤はショックでこんなんなっちゃいました。

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宇宙からの電波を受信してそう。

ところが実際にヤバいのは森田のほうで、彼は自分の邪魔になる人間を手あたり次第に殺していく。岡田とユカのベッドシーンと、森田の殺害シーンを次々に切り替えていく斬新な演出に混乱する。喜んでいいのか、ビビッていいのか、わからない。

あれはどういうことなのだろう。幸せなことと残酷なことが、この世では同じ時間に起きているということなのかな。

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ユカを演じた佐津川愛美さんがかわいらしいし、ベッドシーンは生々しい。北川景子さんのように飛び抜けた美人という感じでもなくて、背もそんなに高くないんですよね。クラスに一人ぐらいいそうな感じというか。自分と地続き感がするような身近さがあって、岡田を演じた濱田岳さんもそこまで男前というわけでもない。等身大に近い気がするのだ。そんな二人のベッドシーンだから、より生々しさを感じるのかなあ。

ユカと岡田の交際を知った森田はユカを本格的につけ狙い始める。ここで、なぜ森田がこんな性格になってしまったのか、高校時代のいじめについて語られる。彼は犬の糞を食べさせられたり、クラスの女子の前で自慰をさせられたり、かなりひどいいじめを受けている。そして友達だった岡田にも手ひどい裏切りを受けているのだ。二人はそれから疎遠になる。

思い返せば、岡田の鈍さも恐ろしい。彼は森田をいじめっ子に渡すひどい裏切りをしているのだ。普通ならばカフェで再会したときに話しかけられないはず。だが、岡田は意識の奥底にその事実を閉じ込めてしまったのか、完全に忘れているようなのだ。人は自分の悪事について、それほど憶えてないのかもしれない。むしろ岡田は鈍かったのではなく鋭敏で、罪悪感から自分の心を守るために積極的に忘れようとしたのかな。自分が過去にどうやって人を傷つけてしまったか、ちょっと考えてしまいました。落ち込むわー。

森田はいじめっ子に復讐してなぶり殺しにする。だが、岡田の裏切りについては憶えてないんですよね。不思議。あまりにいじめがひどすぎてそれどころじゃなかったのかな。森田が手あたり次第に殺したり、強姦したりしていく様子は生々しい残酷さに溢れている。

殴られて激しく体が痙攣したり、失禁したりする。体を叩く鈍い音も怖い。口を撃ち抜かれて穴が開く。女を犯そうとすると生理用品を身につけている。確かにそういうことはあるかもしれないけど、リアルさを感じて気持ち悪くなるのだ。

暴力にも陰と陽があるのかな。「アウトレイジ」のようにヤクザ同士の殺し合いならば、お互い様ということで気楽に観られる。どっちもがんばれー、という。「アジョシ」や「ザ・レイド」のように華麗な殺し合いの場面は美しさすら感じる。でも、この映画はひたすら生々しく痛々しい。

森田はいじめられっ子で体も大きくない。力もそんなにあるわけでもない。包丁が刺さらず肉に弾き返されて、何度も何度も突き刺す。体重を掛けて包丁を徐々に押し込むように警官に突き刺していく。女の顔にシャツをかぶせ、上から殴りつけてシャツに血がにじむ様子も恐ろしい。女は恐怖と痛さで抵抗をあきらめてしまう。

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岡田の「それ以上罪を重ねるな」という言葉に、森田は心底不思議そうに「なんで? もうどうせ死刑だし」みたいなことをいう。この返しに、岡田はうまく答えられないんですよね。たしかに彼の死刑はもう決まっている。今更一人殺そうが二人殺そうが変わらない。「それ以上罪を重ねるな」という言葉は、守るものがある人間にしか通用しない言葉なのだ。それは家族だったり、会社員という身分だったりするのだろうけど森田には何もない。

森田は世界に絶望している。彼は世界が滅びてもべつに気にしない。森田はあまりに傷つきすぎた。いろいろな人間が彼を少しずつ傷つけた。やがてそれは回復不能な傷となり、手に負えない魔物を生み出したように見える。

守るものなど何もないと思われた森田だったが、最後に彼は犬をよけて事故を起こす。朦朧とする森田の頭に浮かんだのは、実家で飼っていた犬、岡田とゲームをして遊んだ高校時代のこと。それは彼が人間だった頃の最後の記憶なのかもしれない。あまりにも哀れで悲しくなった。

残酷な描写がきつくて観た後、少し気分が悪くなってしまいました。好きな人は、ものすごくはまるかもしれませんね。これはねえ、好みが分かれそうですねえ。わたしにはちょっときつすぎました。自分が過去にして憶えていないかもしれない悪事、それが誰かの人生を変えているとしたらと考えると恐ろしい気もしました。


ヒメアノールの意味(公式サイト)
❝アノール❞とはトカゲの1科である。イグアナ科アノール属に含まれるトカゲの総称。165種ほどがある。(ヒメアノール=ヒメトカゲ)となるが、❝ヒメトカゲ❞とは体長10cmほどで猛禽類のエサにもなる小型爬虫類。つまり、❝ヒメアノ~ル❞とは強者の餌となる弱者を意味する。

24
2017

ズートピア

ZOOTOPIA / 2016年 / アメリカ / 監督:バイロン・ハワード、リッチ・ムーア、ジャレド・ブッシュ / サスペンス、差別 / 108分
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誰もが差別の加害者になりうるとしたら。
【あらすじ】
肉食動物の間でがんばるウサギ警官。キツネ最高。



【感想】
「アナと雪の女王」は観方によってはLGBT問題を扱ったものにも見えた。今までのディズニー映画からすると毛色が変わっているし、ディズニー映画にそぐわないのではないかとすら思えた。でも、それは「観方によっては」という話で製作者がLGBTについて意識していたかはわからない。どちらにもとれるという。逃げられるのだ。

だが、この映画は真正面から差別と偏見について取り上げている。ディズニーが社会問題を扱うようになったのかと驚きました。難しいテーマをとりあげても退屈にも重苦しくもならず、高い娯楽性も保たれている。奇跡的なバランスの上に成り立っている。

脚本を見ると実に7人の人間が関わっている。黒澤映画も共同脚本によって面白い作品を排出し続けた時期があった。これはとても重要なことに思える。やはり人が集まると脚本に穴が少なくなるし、ピンチからの脱出に思いもよらぬ方法がとられたりして面白い。

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ウサギとして初めての警官となったジュディ(声・ジニファー・グッドウィン、左)。警察学校では肉食動物たちにバカにされるものの、持ち前のすばしこさと負けず嫌いを発揮して首席で卒業する。両親ですらウサギが警官になれっこないとジュディを信じてないんですよね。おまえの将来はニンジン農家だと決めつけている。よく考えると怖い話。

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念願であるズートピアの警察に配属されたジュディ。彼女は警察学校での優秀な成績から、難事件の捜査を任されると期待していた。だが、彼女に与えられた仕事は交通違反の切符係だった。ここ、あとで本当に重要な部分になってきます。これがねえ、すごく活きてくるんですよ。

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負けず嫌いなジュディはバリバリと仕事をし、切符を切りまくる描写は躍動感があってすばらしい。きちんと子供も大人も楽しめますよねえ。

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ジュディはひょんなことからキツネの詐欺師ニック(声・ジェイソン・ベイトマン、中)と出会い、肉食動物が凶暴化する事件の捜査をしていく。

両者に共通しているのは、共に差別を受けてきたということ。力のないウサギであり、かわいらしい容姿によっても差別を受けるジュディ。キツネのニックは幼い頃に「ずる賢いキツネ」という偏見による差別で傷つき、いつしか「ずる賢い」キツネの振る舞いをすすんでするようになっていた。ニックがジュディの上司からジュディをかばう場面は本当に良かったですねえ。彼らの騙し合いと友情も楽しい。

この映画で肝になるのは、差別されてきたジュディが、ニックを凶暴な肉食動物と差別してしまう悲しさにある。状況から見てしょうがないといえるものの、それでも差別に悩んでいた自分が差別者になってしまう。悪意はなくとも差別をしてしまう怖さを感じる場面だった。

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肉食動物が凶暴化した原因は、青い花だった。この花を肉食動物たちに与えた黒幕がいたのだけど、見事なミステリーになっていました。そして、まさか序盤の演劇のやりとりが最後のどんでん返しに活きてくるなんて! 伏線の回収のしかたがすばらしい。青い花の対処法もわかり事件は解決する。肉食動物への差別問題もひとまずは解決したのだ。

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◆交通違反の切符係
最後、ニックは警察に入ってジュディとコンビを組むことになる。朝のミーティングで、上司は二人に「おまえたちは交通違反の切符係だ」と告げる。ガッカリするジュディとニックだが、お茶目な上司は「冗談だよ~。本当はちゃんとした事件の捜査だよ~」ということで二人は意気揚々と現場へ向かうのだった。めでたしめでたし。

これね、本当によくできていると思いましたよ。赴任早々、ジュディがガッカリするのは交通違反の切符係を命じられたときだった。切符係だってちゃんとした仕事なのに、彼女は差別している。そして事件は解決しても、彼女はやっぱり交通違反の切符係をバカにしたままなのだ。自分が偏見を持っていることに気づいてもいない。この部分はあえてこうしているのだと思う。大人向けのフックですね。この映画を観た子供が、大きくなって再び映画を観たら、こういった仕掛けに気づいて驚くだろう。洒落たマネを。

彼女は善良で正義感溢れる警官。だが、その彼女ですらなんらかの差別感情はあるのだ。怖いですよね。差別感情というのは「ある」「ない」ではなく、濃度が問題なのではないか。濃度がある一定の度合いを超えると危険なものになってしまう。自分だけは差別感情を持たない人間であるという考えは危うい。

差別がいけないのは当たり前だが、厳密に人の差別感情を糾弾していくと全員が差別者になってしまうだろう。窮屈になって冗談もいえなくなってしまう。だから、警告の意味も込めてジュディに切符係への差別感情を持たせ続けたのではないか。誰もが差別感情はあるのだという。人の命に係わるような差別は正されなければならないが、ある程度は許し合っていかないと暮らしにくくもなる。

ディズニー映画は子供が観るものという偏見がありましたが、今回は圧倒的な力で打ち砕かれてしまったので嬉しい。これからどんどん観ていこうと思います。

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脇役も良かったですね。モグラのゴッドファーザーとか、スピード狂のナマケモノとか、ニックの相棒の小さい奴とか。

ウサギを飼っていた友人がいってましたが、ジュディは緊張したときに鼻の辺りが膨らんでピクピクするそうで、これは実際にウサギが緊張したときに起きる仕草だそうです。耳がピンとなるとかは誰でも気づくけど、細かいところに凝ってるんですねえ。

誰にでも薦められる作品という言葉がありますが、この映画がまさにそうでした。子供が観られるからといって作品のレベルをまったく落としてないのがすばらしい。難しいテーマと娯楽性の共存は可能なんだなあ。ニックがかっこ良すぎるぞ~。最高です!



一つだけ疑問なのは、肉食動物は何を食べてんだろ。