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旧作映画の感想、ネタバレしてます。
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2019

フレンチアルプスで起きたこと

FORCE MAJEURE / 2014年 / スウェーデン、デンマーク、フランス、ノルウェー / 監督:リューベン・オストルンド / ドラマ / 120分
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人を許すことができないのはなぜ?
【あらすじ】
雪崩に遭ったので家族をおいて逃げ出した。



【感想】
原題「FORCE MAJEURU(フォース・マジュール)」は「不可抗力」を意味するフランス語。

2時間ずっと揉めているというですね、なかなか観ていてつらい映画です。ひょっとしてカップルで、こういったケンカをしたことがある人がいるかもしれません。私も似た経験がある‥‥。わ、私は悪くないんだ!

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スキーを楽しむため、フレンチアルプスの高級ホテルに滞在中の一家。レストランのデッキで昼食をとっていたところ雪崩に巻き込まれてしまう。パニックになった夫のトマス(ヨハネス・バー・クンケ、左)は、子供たちや妻のエバ(リサ・ローヴェン・コングスリ、左から二人目)を置き去りにして一目散に逃げてしまう。雪崩そのものはたいしたことがなく、怪我人も出なかった。だが、妻は家族を置き去りにしたトマスを許せずにいた。

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轟音と共に山の斜面から雪崩が。「パパ―! パパ―!」と雪崩の危機を必死に訴える子供たち。「あれなら小さい。すごいだろ?」と余裕のパパ。「はっはっは! 大丈夫大丈夫、あれはプロの仕事だよ」心配する家族をよそにカメラを構えるトマス(青い服)。

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妻のエバ(紫の服)と子供たちは脅えている。

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ハリー、立たなくていいから。はははは! 大丈夫だって。アレはプロの‥‥プロの? の、のわー! だずげでー!!!

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見知らぬおっさんに抱きついて押しのけ、我先にと逃げるトマス。子供と妻なんて知らん! わ、わしが生きのびるんじゃ!

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うるさい! どけどけー! 妻は人を突き飛ばして逃げる夫の背中をしっかりと見ていた。

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雪煙の中、父を呼ぶ子の叫びが虚しく響き渡るのだった。パパは全速力で逃亡しました。

しばらくして混乱も収まり、みな席に戻ってくる。「あの雪崩すごかったよね」と口々に言い合う人々。

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きまり悪さから「プロが起こした雪崩にしては⋯(ごにょごにょ) 」などと口ごもるトマスだが、もう家族はトマスの言うことなど聞いていない。誰も目を合わせてくれない。おまえ、真っ先に逃げやがってコノヤロー、しかない。地獄の食卓ですよ。

しばらく時間が経っても、エバはトマスの行動を引きずっている。ホテルで会った友人たちと食事をするときも、エバは執拗にトマスの行動を蒸し返して恥をかかすんですね。

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だが、私はどちらかというとトマスがかわいそうに思えた。男だって雪崩は怖いのだ。雪崩に巻き込まれたら男も女もないじゃん? という。ビビッて我が身かわいさに逃げたトマスは本当に悪人なのか。トマスに情けない部分があるとしたら、自分が逃げたのを認めないことと、謝らないことだろうか。だけど、逃げるという行動が本能からきたものならば、そもそもトマスには謝る必要がないのかもしれない。

エバは友人たちの前でトマスに恥をかかすように雪崩の話を持ち出す。エバの気持ちはわかるものの、このやり方には陰湿さを感じる。彼女は自分の考えを信じて疑わないところがある。意見の合わない女友達を非難したり、スキーリフトでは勝手な振る舞いをする。

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逃げたことを否定するトマスだったが、エバは友人たちに「動画を撮ってあるので確認しましょう」とみんなで観ることを提案。鬼なの? さらし者になり、針のむしろのトマスさん(中央)。呆然自失なのです‥‥。かわいそ。

エバは、一言トマスに謝ってもらいたかっただけかもしれない。男は家族を守って当然という考えがある。だが、自分の命が危ういとしたら、そのときにパニックになって逃げだしたとき、これを非難するのは少しかわいそうに思う。もちろん家族を守れればいいのだけど。また、妻の失望というのも理解できるんですよね。この人、いざというとき、頼りにならんなあという。

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エバにも子供たちにも冷たくされ、泣き出してしまうトマスさん。なにも泣かんでも‥‥。俺は、俺の性格の被害者なんだ! と、けっこう無理めの弁明をする。そして自分で自分の行動が許せずに妻に懺悔。「自分の性格は最低だと思う。子供とゲームをやればズルをするし、浮気はするし‥‥」って、サラっと今、浮気て。ゲームのズルと浮気を並べて告白するのは無茶苦茶では。トマスが逃げたことより浮気のほうが問題だと思う。

エバは雪山でトマスに頼ったこと(妻の芝居?)により、二人の関係はとりあえず修復したようには見える。

だが今度は、ホテルから下山する山道で、バスの運転が荒っぽいことにエバがヒステリーを起こす。彼女が無理にバスを降りたことにより、乗客たちもパニックを起こす。

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序盤で彼女と言い合いになった女性だけはバスから降りず、バスは何事もなかったかのように山道を下っていく。本当はこの女性が正しかったのかもしれない。大袈裟に騒ぎ立てた乗客たちはきまり悪さを共有しつつ、共に下山する。

エバは、子供たちのことは忘れて真っ先にバスを降りる。実はこれはトマスがやったことと同じで、バスと雪崩という二つの出来事は対になっているんですね。トマスは彼女を責めない。

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下山していたとき、隣を歩いていた男からトマスは煙草を勧められる。最初は断ったものの、思い直して一本もらう。その様子を見て「パパ、喫うの?」と息子が驚く。この場面、良かったですね。トマスもかつては父親ではなく、ただの一人の男だった。束の間の、責任からの解放というか。トマスは、子供の出産をきっかけに煙草をやめていたのだろう。家族を愛してないわけじゃない。不可抗力でみっともない行動をとることは誰だってありうる。許し合えば、もっと楽に生きられる。相手に期待しすぎても、いいことないよねえ。

そんなことよりトマス、おまえ、浮気の話はいいんか。あれは無罪とは思えないんだけど。

ヨーロッパらしいというか、重箱の隅をせせってくるような映画でした。奥さんがねえ、怖いんだもの。許してくれないんだもの。カップルで観ると、意見の違いが楽しめそうです。不穏な感じになったりして。思考実験や討論が好きな人には向いているかも。


08
2019

マギー

MAGGIE / 2015年 / アメリカ、スミス / 監督:ヘンリー・ホブソン / ゾンビ / 95分
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家族がゾンビになったそのときに。
【あらすじ】
娘がゾンビになりかけています。



【感想】
久々のシュワちゃん主演作品を観る。助演は『ハウンター』『ゾンビランド』『私の中のあなた』などのアビゲイル・ブレスリン。この作品もそうですが、ゾンビ物の出演が多いんですよね。好きなのかな。

カリフォルニア州知事を退任し、映画界に復帰してからは今まで出演してきた娯楽大作とは毛色の違う作品にも出るようになったシュワちゃん。娯楽大作にあまり出なくなったのは、年齢的なことが大きいのかな。『ラストスタンド』ではがんばっていましたが、若い頃と同じ動きを期待するのは無理がある。だけど、航空機事故の遺族を演じた『アフターマス』では、アクションはなくてもいい演技をしていました。じっくりとした作品もけっこう好きです。

ゾンビに立ち向かって大暴れするような映画を期待した方はがっかりするかもしれませんが、しみじみとした作りの映画になっています。

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近未来、感染したらゾンビになってしまう謎のウイルスによって人類は絶滅の危機に瀕していた。ウェイド・ヴォ―ゲル(アーノルド・シュワルツェネッガー)は家族と共にアメリカの片田舎でひっそりと暮らしていた。ある日、娘のマギー(アビゲイル・ブレスリン)がウイルスに感染していると診断される。彼女が人とのしての意識を保っていられる時間は残りわずかしかなかった。

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ドラマ『ウォーキング・デッド』に少し似た話がありましたね。ゾンビ化した娘を殺すことができず、密かに家にかくまい続けるという。ほぼ、そんな話。

シュワちゃんは存在が強すぎるのか、ウェイド・ヴォ―ゲルという父親役ではなく、何をやってもシュワちゃんに見えてしまう。これはもう仕方のないところ。シュワちゃんがどこまでも娘に寄り添おうとする姿は切ないものがありました。

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ゾンビ物として何か新しいところがあるかといえば、特筆すべき点はないかも。夕闇の雰囲気が美しく、世界の終わりを静かに噛みしめるような作品。身近な人が今までとは違う形になってしまうのは、精神を病んでしまうとか、認知症とか、そういった置換もある程度はできるのでしょうか。どうすることもできないやるせなさというのがありました。

05
2019

TRUE DETECTIVE / 二人の刑事(シーズン1)

TRUE DETECTIVE / 2014年ー / アメリカ / 原案:ニック・ピゾラット / サスペンス / シーズン1(全8話)
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乗り越えなければ先に進めない。
【あらすじ】
殺人事件を捜査しています。警察を辞めても。



【感想】
現在シーズン3まで公開されているシリーズのシーズン1を観ました。シーズン1だけで完結しています。2,3は主人公が変わる。

サスペンスではあるけれども、事件そのものより、二人の刑事の生き方に重きをおいた作品に感じた。マシュー・マコノヒー(左)とウディ・ハレルソン(右)の協調や対立が見どころ。

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際立った頭脳を持ちながらいつも波風を立ててしまい、周囲と円滑な人間関係を築くことができないラスト・コール(マシュー・マコノヒー、左)、家族を愛しながらも毎度浮気をしてしまうマーティン・ハート(ウディ・ハレルソン、右)。

二人の自然な距離感がいい。ベタベタした馴れ合いはなく、お互いがお互いに興味がある様子もない。仕事で組んだから仕方なく一緒にやっているような。コールは歯に衣着せぬところがあるし、同僚として付き合っていくのは困難なタイプに見える。二人はタイプも違うし、人間的にもちょっと問題がある。それでも彼らが協力して捜査を行ってこられたのは、お互いの根底にある正義感が似ているからかな。人としてこれだけは許してはならない、というライン。結局、人を繋ぐのはそういった根底の部分ということだろうか。

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日本の作品とは少し善悪の価値観に違いがあるように感じた。マーティン(左)は、小児性愛者のレイプ犯を怒りから撃ち殺してしまう。日本の刑事物なら、卑劣な犯人といえども法の裁きにかけるのが正しいと結論しそうだけれど。コール(右)は、なんの躊躇いもなく犯人が銃を撃ってきたように見せかける偽装工作を行う。二人には犯人殺害や偽装工作についての懊悩や葛藤はまったくない。そこが興味深い。

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このドラマでたびたび映し出される湿地が印象的。この土地に潜む得体の知れない何か、因習なのか、秘められた狂気なのか、茫漠とした不安を呼び起こしてくる。

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コールもマーティンも優秀な刑事かもしれないが、一方で人柄に不安定さを感じる。マーティンはちょっとかわいい子がいると、すぐ不倫に走る。そして不倫相手から奥さんに暴露される。学習しない男よ。不倫相手がとびきりの美人ばかりなんですよね。無理もないなあ!

刑事も当然人間ですが、問題が多すぎるぞ。

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マーティンの長女(中央)は、ちょっと不安定で反抗的。クラスメイトと3Pをしているところを警察に補導される。怒りに震えるマーティン。

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「法廷強姦罪で訴えられるか、ここで済ますか(ボコボコにされるか)選べ」と迫る。む、無茶な‥‥。マーティンは相手の二人をグローブをつけてボコボコにします。

彼らは犯罪者というわけではなく、性行為は娘の合意があったんですけども、マーティンにはそんなことは関係ない。娘が荒んだのは、マーティンの度重なる不倫が原因の一端であるということにも思いが及ばない。

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コールはマーティンとのトラブルで警察を辞める。ドラッグや酒に溺れてしまう。だが、辞職後も彼は密かに担当した殺人事件を追い続けている。のちにマーティンも警察を辞め、探偵業を始める。再会した二人はこの未解決事件の捜査を継続する。一円にもならないけれど。コールの執念の源は、若くして亡くなった彼の娘なのだろう。犠牲者に自分の娘を重ねている。コールにとってこの事件は、娘の死を乗り越えて自らを再生させる唯一の方法だったのかもしれない。

マーティンは娘とうまく関係を築けてはいない。だが、不器用で自分勝手なやり方だが娘を愛している。二人とも「こんな犯罪を許してはならない」みたいなことは口にしないんですね。ただ、淡々と捜査を行う。二人とも褒められた人間ではないが底に燻る正義感がある。そこが魅力的なのかな。コールが刺されたとき、マーティンは警察への供述で「(救助を待ちながら)地面に座り込み、友の名を呼び……」と語る。マーティンがコールのことを友と呼んだのは、このときが初めてで唯一だと思う。ここにきてこれはぐっときますよ。

リアルではヒーローのような人間などおらず、みなどこか欠点ややるせなさを抱え、生活している。不完全な人間しかいないし、それが当たり前だと思う。問題ある二人の姿に惹きつけられるのは、心の根底にある仄かな暁光を見失わないからだろうか。見応えのあるドラマでした。