30
2016

陽だまりハウスでマラソンを

SEIN LETZTES RENNEN / 2013年 / ドイツ / 監督:キリアン・リートホーフ / ドラマ
V1__20160831015711935.jpg
わたしが決めるわたしの終わり方。
【あらすじ】
老人ホームに入ったけど退屈なのでマラソンを始めます。


【感想】
久しぶりのドイツ映画です。いやあもうとても素敵な映画でしたよ。物分かりがよくて優しい老人なんてほとんどいない。みんな一癖二癖あるどころか「俺は若い頃、強盗だったんだ」と、犯罪者までおりますよ。多彩な顔触れ。

8yxx_201609022137591ec.jpg

パウル(ディーター・ハラーフォルデン)は妻の病気をきっかけに、夫婦で老人ホームに入居する。パウルはメルボルンオリンピックで金メダルを獲得した伝説のマラソンランナーだった。70歳を超えてもまだまだ元気なパウルは、老人ホームで日々行われる栗を使ったオブジェ作りや合唱に嫌気がさしていた。

bild.jpg

死ぬまでこんなつまんないことやんの?まったくやってられませんわ!と不満顔のパウルさん。でも、実際こういう問題は起きてますからねえ。若者よりも元気な人、認知症の人、いろんな方がいますから。みんなに同じことをさせるのも無茶ですが、個別に対応すると今度は人手が足りなくなるという施設側のつらさもわかる気がします。

ixx.jpg

パウルさんの傍若無人さが和を乱す、と宿敵のおじいちゃん(左端)。この人もいい味出してましたねえ。

was-ihn-treibt-bringt-den_20160902213723bd5.jpg

わけのわからん栗のオブジェなんか作ってられるか!と走り出すパウルさん。ベルリンマラソンで優勝すると張り切って練習に励む。大丈夫か‥‥。

04_201609022137223af.jpg

うーん、棺桶に片足つっこんだ顔である。無理しないで。

7yxx_201609022138010f8.jpg

この映画のいいところは、施設の職員を無理解な人々という単純な悪役にしてないところだと思います。どうしても「敵味方」として対立しがちな施設の職員、家族、入居者の関係をうまく描いている。本当は敵も味方もない。入居者は納得いく形で人生を終えたいだろうし、職員はそのサポートをしたい。入居者と職員は、老いという共通の敵と戦う仲間、同志のような関係のはず。

施設の職員たちはパウルに走ってほしくないんですね。パウルは死んだっていいと思っているが、彼が倒れたら責任問題になるし、家族から責められたり訴えられたりするかもしれない。何もしないで過ごしてほしいというのはわかる。でも、パウルにしてみれば、それはただ漫然と生きているだけで、はたしてそれは人生と呼べるものなのかという疑問がある。それがマラソンへと繋がっていく。

yx9x_201609022137569e2.jpg

面白いのが、パウルが完全に健康で正常な判断力を有しているわけでもなく、どうも初期の認知症を患っている疑いがあること。こうなってくると本人の希望だからといって走らせていいかは難しい。走るなといえば生き甲斐を奪うようなものだし。かといって練習してたら現在位置がわからなくなってベンチで寝てしまったりも。本人の意思をどこまで優先すべきか、難しい問題です。

21019531_20130715144147363_2016090221372681e.jpg

だからといってまったく頭が駄目になっているわけでもないんですよ。ときに頼りなく、ときにはまったく問題なく見える。だからこそ判断が難しい。こういう曖昧な状態の人ってかなり多いんじゃないのかなあ。

娘との関係もよかったですね。もう一緒には暮らせないと思っている娘と同居したがっている親。入居者たちは子供の自慢をしあったりするが、会いに来る子供がいないところも面白いですね。ナチスの軍歌を歌って問題を起こしたときに来たことはあったけど。

入居者の一人が「子供たちは親の惨めな姿を見たくない」というのには、思わずうなづいてしまった。衰えた姿というのはやはり子供からすると見たくなくて、ついつい足が遠のくんでしょうねえ。

娘と施設の職員が対立し、ちょっと職員を責めてしまったとき「ごめんなさい。責めてるわけじゃないのよ」とすぐに詫びたのは、本当によくわかる。娘からすると、親を人間扱いしてないとか、尊厳を踏みにじってると憤る部分もあるものの、かといって自分は仕事をしていてとてもじゃないが親の面倒は見られない。施設を追い出されると困る。それに親の言動が少しおかしいというのも理解している。でも、やっぱり親に情はあるわけで、施設の職員にちょっと強くいってしまうこともあるのです。それぞれに思惑があって、繊細かつ微妙な関係がとてもよかった。

yxx_20160902213728a70.jpg

奥さんとの仲睦まじい関係も微笑ましい。夫婦を風と海にたとえるところは、ちょっとぐっとくるものがありました。

いろいろあってベルリンマラソンに出場。はたして老人にマラソンなんてできるのか、まったくリアリティがないといえばそうなのですが、100歳でマラソンを完走したファウジャ・シンさんもいますし、いいのかなと思います。しかし、ファウジャ・シンさんはマラソンを始めたのが89歳というのがすごい。どうかしている。物事を始めるのに遅いということはない、などとよくいいますが、89歳からマラソン始める人がいたら普通はとめてしまうだろう。そういうのがいけないのかもしれない。たとえ死んだとしてもやりたいことがあるだろう。

老人問題の難しさ、親子・夫婦の絆の強さが描かれているいい映画でした。それにしても頑固なおじいちゃん、おばあちゃんはいいなあ。お薦めです。



関連記事
スポンサーサイト

0 Comments

Leave a comment