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2017
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ドローン・オブ・ウォー
GOOD KILL / 2014年 / アメリカ / 監督:アンドリュー・ニコル / 戦争 / 102分








箱の中から行われる戦争。
【あらすじ】
戦地には行かず、ラスベガスにある基地からドローンで空爆します。
【感想】
イーサン・ホークが出る映画は変わってる作品が多くていいですね。この映画もちょっと変わった戦争映画。冒頭、「事実に基づいている」という表記が出ますがどの程度事実なのでしょう。

アメリカ空軍に所属するトミー・イーガン少佐(イーサン・ホーク)。かつてはF16戦闘機に乗り空を飛びまわっていたが今は地上勤務となっている。戦地であるアフガニスタンから遠く離れたアメリカ・ラスベガス近郊にある空軍基地が彼の勤務地だった。

トミーは背後にあるコンテナにこもり、ドローンを遠隔操作して遥か12000キロ先のテロリストを攻撃している。死ぬ危険もないし、毎日家族の元に帰れるし、なかなかいいんじゃないのと観ていたら、どうもそんな簡単なことじゃないんですね。話が進むにつれて、どんどんトミーさんの精神がやられていきますよ。

こちらはトミーの上司ジャック・ジョンズ中佐(ブルース・グリーンウッド)。ずっとサム・ニール(ジュラシック・パークの博士)かと思ってた。検索してみると全然似てなかった。
中佐から新兵たちへの訓示で、ドローンによる攻撃部隊の兵士の半分はゲームセンターでスカウトされるという部分がある。ほ、ほんとか。ドローンの操縦はXboxをモデルにしているというセリフもある。
米軍が開発した「American's Army」という一人称視点の撃ちあいゲームがある。Steamで無料公開されている。あのゲームにもいつかドローンが登場し、スコアがいいプレイヤーは米軍から直接スカウトされる日が来るかもしれない。

来る日も来る日も、遠隔操作のドローンによってテロリストを撃ち殺すトミー。やがて軍からCIAに指揮権が移ると、民間人の犠牲も当たり前の攻撃命令が増加する。

トミーは元はF16のパイロットであり、家族と離れても戦地に赴くことを希望している。極端なことをいえば、彼は戦争で死んでもいいと思ってるんですよね。相手を殺しても、自分が撃ち落とされて死んでもお互い様ということなのだろう。それが兵士の生き方という。
でも今やっていることは、安全な場所から一方的にテロリストを殺すだけなのだ。しかも、テロリストであるという情報が真実かどうかも疑わしい。軍やCIAがそうだといえば信じるしかない。畑に肥料を撒いているようにしか見えない人間を殺せといわれる。ターゲットの周りに女性や子供がいても「犠牲はやむを得ない」といわれる。はたしてこれは戦争なのか。一方的な虐殺ではないか。トミーはしだいに精神が蝕まれていく。
第二次大戦中、ユダヤ人の大量虐殺にかかわったアドルフ・アイヒマンは裁判のさい「命令に従っただけ」と証言している。自分の心を守るには、アイヒマンのように考えることをやめるしかないのだろうか。アイヒマンと同一に考えるのは無茶だけども。
ジョンズ中佐はこの任務の正当性をメンバーに説明するが、本当のところ自分でも任務の正当性を信じていない。というのは、命令違反をしたトニーを厳しく処分できないのだ。心のどこかで納得がいかないから、トニーに同情し曖昧に済ませてしまう。
トミーのように命令に疑問を持つと、任務と良心の板挟みとなり、心を病んでしまうのだろう。

同僚の女性は「アメリカがテロリストを作り出している」という。ただ普通に暮らしていただけなのに、ある日いきなり爆弾で命を奪われたとしたら、復讐を考えて当たり前である。これからもテロリストは増えていくのだろう。

奥さん(ジャニュアリー・ジョーンズ)とのギャップも大きくて、ちょっと笑ってしまった。トニーは兵士の命がかかった任務が急に入り、やむなく残業する。追い詰められてギリギリなのだけど、奥さんは「子供はあなたが迎えに行く約束だった」と怒る。で、奥さんの用事というのは「わたしはジムに行く予定だったのに!」というのだ。ジムて。温度差ありすぎるわ。
もうこれ、頭おかしくなるだろうなあ。トミーからすればジムなど些末なことだが、でも、日常生活というのはそういう小さなことの積み重ねなんですよね。二人がすれ違っていくのは、どちらが悪いともいえないように思う。
この映画、IMDB(映画データベースサイト)では6.4点(10点満点中)と、あまり評価されていない。アメリカ人からすると批判されているようで面白くないのかなあ。それとも、まったく派手な場面がないからかな。上空のカメラからの爆撃場面をひたすら観続けることになる。ちょっと苦痛ですらある。でも、それならドキュメンタリーでやればという気もするんですね。爽快さやカタルシスなどまったくない。嫌な気分を与えることこそが監督の狙いなのかもしれないけど。
楽しくもないし重苦しさしかないですが、とてもいい映画だと思います。イーサン・ホークはやはりちょっと変わった映画に出ますね。ますます好きになりました。
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