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2017

アメリカン・ドリーマー 理想の代償

A MOST VIOLENT YEAR / 2014年 / アメリカ、アラブ首長国連邦 / J・C・チャンダー / ドラマ / 125分
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鹿を殺せない人間に理想を追い続ける資格はあるか。
【あらすじ】
真面目な経営者でありたい。



【感想】
監督は「オール・イズ・ロスト 最後の手紙」でロバート・レッドフォードを水責めにしたJ・C・チャンダー。世界金融危機の前日を映画にした「マージン・コール」の監督でもある。一癖も二癖もある作品を撮りますね。経営者のあり方について考えさせられる内容でした。邦題に入っている「理想の代償」という言葉ですが、映画を端的に表していて感心。

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1981年、ニューヨーク。移民としてアメリカにやってきたアベル(オスカー・アイザック、右)とその妻アナ(ジェシカ・チャステイン、左)。犯罪すれすれ、生き馬の目を抜くオイル業界で一旗揚げようと会社を立ち上げた。アベルの信条は誠実であること。同業他社のように顧客をだますようなことはせず、あくまで正攻法で事業を展開していく。急速に勢力を拡大する新参者のアベルに業界の目は冷たい。

アベルが、全財産を土地買収の手付金に支払った直後、何者かによってアベルの会社のトラックが強奪される事件が続発。さらに検事局からは脱税疑惑で起訴され、銀行からも融資が打ち切られる。会社は倒産寸前に追い込まれる。踏んだり蹴ったりである。

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誠実な経営者アベルを演じたオスカー・アイザックが本当にすばらしかった。角度によってはゴッドファーザーのアル・パチーノのようにも見える。目の落ち窪んだ感じが似ているのかな。かっこうもマフィアっぽい。でも、銃を乱射しないので偉いと思います。

奥さんなんか完全にその筋の人を思わせる。ギャングの娘という設定がピッタリでした。肝っ玉の据わり具合がいい。

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ちょっとヤバめの奥さんと違ってアベルは誠実な経営者で、従業員にもお客に対して誠実であることを望む。本当に立派な人柄で、と最初のうちは思っていた。だが、オイルを積んだ自社のトラックを強奪されるあたりから少しずつ違和感を感じ始めた。

度重なる強奪事件に危険感を覚えた現場から、銃を所持したいという意見が出始める。労働組合の長がこの要望をアベルに伝えるがアベルは首を縦に振らない。「暴力は暴力しか生まない。銃を持てば相手はそれ以上の武装をしてやってくる」というアベルの反論は正しく聞こえる。だが、理想の正しさとは別に、現実に銃を持ってくる強盗に対して従業員を守る具体的手段を何一つ講じていない。従業員にも、人としてどうあるべきかを説くばかりで何もしないのだ。

アベルと妻アナが乗った車が鹿をはねるエピソードも、銃所持の話とかぶる。苦しむ鹿を前にアベルはとどめを刺そうと工具を持つが、なかなか振り下ろすことができない。たまりかねたアナが銃で撃ち殺す。アナが許可証のない銃を持っていたことに驚き、アナを責めるアベル。ここらへんがアベルらしいとちょっと笑ってしまった。

苦しむ鹿というのは強盗に遭って困惑している従業員を思わせる。アベルの理想の高さはすばらしいものの、その理想の高さで鹿が救えるかというと何もできない。むしろ鹿を苦しみから救ったのは違法な銃を使ったアナである。

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アベルは、検事局から目を付けられていることもあって一切違法なことはしてほしくないんですね。従業員に対して崇高な理念を説いたのも、従業員の成長を望む本心からに見える。だが、それだけではない。従業員を信用してない部分もある。彼らが許可証のない銃を使って強盗を撃ち殺した場合、検事局に有利な材料を与えかねない。従業員が銃を持っているという噂が出ると銀行に与えるイメージも良くない。ここらへんは経営者としては当然考えることで、そういった視点はアナにも従業員にもない。アナは経理なので帳簿からしか会社を見ず、従業員は現場の視点しか持てない。それは当たり前ではあるものの、アベルは会社を一方向ではなくさまざまな方向から眺めている。経営者の孤独を感じる部分でもある。

だが、やはりなんらかの手を打つべきだったのだ。警備員を雇うのが一番だろうけど、それも資金の問題があって難しいように思う。一台に二人乗せるのも同様に人件費がかかるだろう。銃所持を認めたとして、強盗を撃ち殺すことになれば事件になるのは避けられない。警察はまったく捜査をする気はないし犯人の目星もつかない。はたして自分なら何ができるのかとも思う。

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ある日、従業員の一人は護身用に所持していた拳銃を発砲してしまう。彼はトラックを置き去りにしてそのまま逃亡する。彼の銃は違法なもので、彼自身に犯罪歴もあったのだろう。彼はアベル同様に移民であり、彼のことを尊敬していた。やがては自分もアベルのようになれるのではないかと思っていたのだ。結果、彼は死亡することになる。この従業員の存在は、可能性のある若者、つまり若き日のアベルを表しているのではないか。

アベルの追求した理想の代償は従業員の死だった。だが、それだけではない。同時にアベルの良心も死んだ。彼はアナが密かに作っていた裏金で土地を買収し、検事の出世の見返りに起訴を取り下げさせる。正しさにこだわった男がいとも簡単に道を踏み外していく。彼はかつてはすばらしい経営者だった。正しくいつづけることの難しさ、人を簡単に善悪に分けられない難しさを感じる。アベルに肩入れするなら、アメリカの持つさまざまな悪い面(権力の腐敗、不正まみれのオイル業界、手段を選ばぬ目的遂行、贅沢な生活への憧れなど)が彼を悪人に変えてしまったのかもしれない。

とてもいい映画だと思いますが話が固いので人によっては退屈かも。サスペンス要素もそれほどない。経営者も、むしろこういう映画は観たくないかもしれませんね。銀行に急に融資を打ち切られる場面とか具合悪くなりそう。以前、勤めていた会社のことを少し思い出した。お金があるうちは社長もいい人だったなあ。


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