19
2017

山の音

1954年 / 日本 / 監督:成瀬巳喜男、原作:川端康成 / ドラマ / 96分
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嫁がかわいいので、なんとか助けたい。実の娘はそんなでもない。
【あらすじ】
息子が不倫しているのでやめさせたい。



【感想】
川端康成の同名小説が原作。以前に読んだが内容を忘れており、映画を観た後で半分ぐらい読み返してみた。何か大きな事件が起こるでもない。同居している家族のすれ違い、義理の娘へのほのかな恋心を静かに描いている。

それにしても、あまりにも現代の価値観と違い驚く。男性優位の社会で、男が外で浮気をしていても女は黙って堪えているという。現代なら、訴訟、離婚、慰謝料のコンボは避けられないと思うが、うーん、もはや違う星の話。

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60歳を過ぎ、そろそろ人生の終わりも見えてきた信吾(山村聰)。同居する息子の嫁菊子(原節子)に初恋の相手を重ね、信吾は菊子にほのかな恋心を抱く。本当にほのかなんですよね。積極的に口説こうとか、そういったことはまったくない。息子の嫁としてかわいがってやるという。

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原節子はおっとりして、じっと堪える役が多いように見える。この時代の女性がそうだったのかもしれないけど。今回は夫の浮気に堪え、献身的に夫の両親に仕える良妻。

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息子修一(上原謙、右)のクズっぷりがなかなか。表情や喋り方から酷薄さが滲み出てすばらしい。天から与えられたクズっぷりという感じで、クズの才能に溢れてるなあ!

浮気を父から咎められてもどこ吹く風。「いづれきちんとしますから」と、のらりくらり。おまえ、なぜそんな強気なのだ。こんな奴、殴ってやればいいのになあ。それで解決じゃんかあ! と思いながら観てましたよ。

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よくわからないのが菊子の心境。面と向かって修一の浮気を批難するでもない。同居する義理の両親に訴えるでもない。ただじっと堪えている。大人しい女なのかと思いきや、義理の両親に相談することもなく妊娠していた子供を堕ろしてしまう。修一がとめても聞かない。菊子の唐突さ、頑なさに恐ろしいものを感じた。

孫は両親も楽しみにしていたし、菊子も子供ができないことを苦しんでいたのだが。浮気男の修一の子供など絶対に産んでやるものかという復讐なのか。義理の両親に対しては本当に従順でおとなしい菊子だが、修一は「気の強いところがある」といっている。一緒に住んでいようと夫婦にしかわからない部分なのか。

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お互い理解しいたわりあっている関係に見えて、家族はすれ違いが多い。信吾も表には出さないがさまざまなものを抱えている。信吾は本当は妻の保子ではなく、保子の姉のことが好きだった。実の娘の房子よりも義理の娘である菊子のほうがかわいい。信吾は心の底で静かに思っているだけで、あからさまに周囲に感情を伝えることはない。微妙なすれ違いを抱えたまま生き、またそれでいいと思っている節がある。

現代人はもっとはっきりしているし、不当な扱い(この映画だと女性の扱いがそうだが)に対してはきちんと抗議するだろう。良い悪いとは別に、もうこういった映画が作られないのは、静かな感情を心の奥底に湛えている日本人が少なくなったからかもしれない。


 
みょうにいやらしい表現のある原作。息子夫婦の夜の営みに耳を澄ます父親の姿は、なんだかちょっと気持ち悪いような。文学といえば高尚で聞こえはいいが、ただの変態ということもある。高尚と変態は矛盾するのではなく、高尚であり変態ということもあって、意外な相性の良さで同居するのかもしれない。
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