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旧作映画の感想、ネタバレしてます。
10
2017

夜叉

1985年 / 日本 / 監督:降旗康男 / 恋愛、ドラマ / 127分
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すべては田中裕子のために。
【あらすじ】
小料理屋の女将を守ってやりたい。かわいいから。



【感想】
久々の高倉健作品。高倉健という人は、何をやっても高倉健に見える。殺しきれない個性の強さを持つ人というのはやはり魅力的に思える。あと、こういう人は誰だろ、キムタクとかセガールとか?

この作品の高倉健が今まで観た高倉健の中でもっとも魅力的に見えた。他、あんまり観てないんですが。しかしですね、健さんのことはいいのだ。問題なのは田中裕子である。まさに魔性の女よ。あまり女優を観てもなんとも思わないのだけど、これはねえ、かわいいと思ってしまった。大人の女なのに、ときに少女のような仕草をすることもあって、でも違和感はまったくない。愛嬌だけでなく度胸もある。「ほら、あんた、しっかりして!」と背中をパンと叩かれたら、もうメロメロになってしまいそう。

わかりますか。わからない方は健さんに日本刀で斬られてください。

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大阪ミナミで「人斬り夜叉」の異名を取った修治(高倉健)。前からちょっと気になっていたのが「ミナミ」という地名。なぜ片仮名表記かといえば、正式な地名じゃないんですね。島之内・道頓堀・難波・千日前という繁華街が大阪の中心業務地区である船場の南側に位置するからミナミと呼ぶらしい。また、かつて存在した南区の区域にあたるという説もあるとのこと。

で、修治は組が覚醒剤に手を出したことに嫌気がさし、ヤクザを辞めて若狭湾の小さな港町で漁師として暮らしていた。冬のある日、ミナミから蛍子(けいこ、田中裕子)という女が流れてきて小料理屋を始める。美しい蛍子目当てに店は漁師たちでにぎわうが、蛍子の情夫である矢島(ビートたけし)は漁師相手に覚醒剤を売り始める。

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修治が本当に渋くて良かったですねえ。修治の友人である啓太(田中邦衛)の息子は上京したがっている。だけど、父親の啓太は反対している。自分と一緒に漁師になってほしいのだ。息子は、修治に父親の説得を頼み、逃げるように上京してしまう。修治は啓太の息子をとめることはせず、車で送ってやりさえする。けっこうね、勝手といえば勝手な人なんですよ。

だって人の家の息子をさあ。啓太にしてみれば「おまえ、勝手に何してくれてんだよ!」となってもおかしくない。でも、息子を親の所有物ではなく一人の人格と認めて扱っているともいえる。こういう軋轢が発生しそうな問題を、当事者である啓太に相談せず独断で決めるところが修治の性格なのだろう。

啓太が倒れ(薬を忘れただけで今は元気)て息子が慌てて戻ってきたとき、修治は「男なら出たり入ったりすんな!」と一喝し、息子を啓太に会わせず追い返してしまう。こえー。これですよ、これ。逆らうことなどできない圧倒的な迫力。自分の信念が強すぎて実は迷惑な人かもしれないけど、それでも惹かれる強さがある。

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そんな修治も通ってしまう小料理屋蛍の女将・蛍子。和服の似合ういい女。扱いに手を焼くような荒くれ者の漁師たちを簡単にあしらい、彼らを虜にする。漁師の妻たちは、みんな蛍子が嫌いという‥‥。そりゃ、そうなりますね。

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だが魅力的でしっかり者の蛍子は、なぜか駄目男の矢島(ビートたけし)に惚れこんでいる。また、ビートが本当に駄目なやつでねえ。なんでこんな駄目なの? ってぐらい駄目なのに、はまってしまうのだ。ここら辺が男女の面白いところ。

覚醒剤を捨てられた矢島が、包丁を持って蛍子を追いかけまわす場面は恐ろしかったですね。完全にアカン人というのを観ました‥‥。恐ろし。水色のセーターというかわいらしい格好が余計に怖い。

矢島との格闘で修治は服を斬られ、背中の夜叉の刺青を町の人間に見られてしまう。町で孤立する修治と蛍子。ビートはどっか行方不明に。急速に仲が深まる二人。

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「コイツら、あやしい‥‥」というので出てくるのが修治の妻・冬子(いしだあゆみ)。思えば、この人ぐらいいい人はいないですよ。

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小料理屋にいる修治が心配で迎えに行く場面がある。二人の仲を疑っているのだけど、浮気しているという確証はない。冬子が、蛍子におしゃくしてやる場面がある。このとき、修治から蛍子に注がせないんですね。さりげなく自分がやる。ささやかな妻の意地というか。警戒心なのかな。その様子がかわいらしい。

矢島は蛍子に覚醒剤をすべて捨てられたため、莫大な借金を抱える。借金が返せなければ命をとられるという。包丁振り回された後なのに、それでも蛍子は矢島を助けようとする。情の深さというか。蛍子は修治に相談する。そのとき、冬子は「(修治の)船を売ってもいい」とすらいう。まったく関係ない矢島と、修治となんだか怪しい蛍子のために船を売るとまでいうとは。こんないい人はいない。

蛍子と修治が橋の上で会ったとき、蛍子は修治に「冬子さん、嫌い」と甘えたようにいう。これがね、わかるような気がするんですよ。蛍子は冬子のことは嫌ってないのだ。漁師の妻たちが蛍子の悪口をいう中、冬子だけは蛍子のことを悪くいってない。それどころか、船を売って矢島の借金にあててもいいとすらいっていたのだ。完全にいい人で、あまりにいい人すぎる冬子を裏切って、修治と関係を持っていることに蛍子は罪悪感を感じているのだろう。

冬子が嫌な人間で、修治との関係も冷え切っているなら、蛍子も良心の呵責なく修治を奪えたのだろう。そうじゃないんですね。冬子がいい人すぎるのだ。

そんで修治はどうしたかといえば、船を売るのではなく、直接ヤクザの元に乗り込んで矢島の身柄を引き受けに行くのだ。修治にとって矢島はどうでもよく、一夜を共にした蛍子のためだけに行く。最初、冬子や子供たちは、捨てられたのかと思った。だが、よく考えてみれば違うように思う。そもそも、矢島の身柄を引き受けに行って無事で済むわけはない。代わりに修治は殺されるかもしれない。蛍子とその後、うまくやろうという計算ではないのだ。なにせ、生きて帰ってこれる保証はないのだから。

冬子を捨てて蛍子を取ったのではなく、修治はこういう人間なのだろう。一度、愛情を交わした人間のために命を賭けるという。もし、先に冬子になんらかのトラブルがあれば、修治は冬子のために命を捨てただろう。

結局、矢島は殺されて修治は家族の元に戻る。蛍子は町を離れる。このとき、蛍子は修治を誘うこともできたはずだが、そうはしないんですね。冬子へのせめてもの義理立てだろうか。列車のトイレで、蛍子はお腹に修治の子を宿したことを知る。泣き笑いのような表情になる。これから子供を抱えて暮らしていくつらさと、それでも好きな男の子供を宿した嬉しさ。夜叉というのは修治の背中だけではなく、蛍子の心にも宿っていたのかもしれない。田中裕子の妖しい魅力に惹きつけられた。田中裕子のための映画に思えた。


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2 Comments

R  

お久しぶりです

ラストの蛍子が宿した子供は、矢島の子だと思うんですよねぇ。
蛍子はどうしようもない矢島でも惚れていたのです。修治には矢島を助けてほしい、生かしてほしいっていう意味で頼っていたというか。
で矢島は死んでしまったけれども矢島の子供を授かったので、ラストにほんの少しニヤっとするというか、その繋がりに安堵したんじゃないかなあ、と思います。

2017/05/16 (Tue) 21:49 | EDIT | REPLY |   

しゅん  

No title

わー。生きてたー。
どうしたかと思ってましたよ。よかったよかった。お元気ですか。


>で矢島は死んでしまったけれども矢島の子供を授かったので、ラストにほんの少しニヤっとするというか、その繋がりに安堵したんじゃないかなあ、と思います。

なるほど、そんな読み方が。
たしかに、修治の子では、修治と蛍子が関係を持ってからツワリがくるまでの時間が早すぎるような気がするんですよね。あの映画ではあまり時間の流れがよくわからないのですが。どうなんだろ。

一人目の子供は、矢島の子かどうかはっきりわからないみたいだし、二人目は矢島の子と確信があって、あの「ニヤ~」という顔なのでしょうか。うーむ、やはり恐ろしいものを感じる。蛍子、恐ろしい女!

この作品の田中裕子さんは本当に良かったですねえ。


なにか良さそうな作品ありましたら、また教えてください。

最近だと「ロブスター」という映画が良かったです。奇妙なので誰にでもお薦めというわけではないのですが。

2017/05/17 (Wed) 23:52 | EDIT | REPLY |   

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