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旧作映画の感想、ネタバレしてます。
25
2017

ヒメアノ~ル

2016年 / 日本 / 監督:吉田恵輔、原作:古谷実 / サスペンス / 99分
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街で森田剛を見かけたら、走って逃げます。怖いよおおおお。
【あらすじ】
彼女ができて喜んでいたらストーカーに狙われました。



【感想】
キャッチコピーの「めんどくさいから殺していい?」って面白いなあ。殺すほうがよっぽどめんどくさいと思うけど。森田剛さんのサイコパスものです。とんでもなくエグイ描写が満載。もう観たくないよ‥‥。

漫画「稲中卓球部」の古谷実さんの同名漫画が原作。原作未読です。監督は「麦子さんと」の吉田恵輔監督。

ギャグ漫画である「稲中」と、笑いもあるいい話の「麦子さんと」の組み合わせ。笑える映画だと勘違いして「ヒメアノ~ル」を観ると、えらい目に遭いますよ。遭いました。エグイ描写で具合悪くなったもの。ラブコメかと思っていたら、40分経ってようやくタイトルが表示されたと思ったらサスペンスホラーに豹変というとんでもない構成。いやあ、怖かったですねえ。なんだろうこの怖さ。

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ビル清掃会社のアルバイト岡田(濱田岳、右)。自分の人生はこのままでいいのだろうかと悩んでいる。ありがちな悩みだし、悩んでいるといっても上辺だけに見えて、何か具体的な手立てを講ずるでもない。そこら辺にいるウダウダした人の一人なのだ。自分の悪口書いてる気分。やめて。

またこの職場が嫌な感じに荒んでるんですよね。岡田のミスに対しての職人の怒り方とか、先輩である安藤(ムロツヨシ、左)のその場しのぎで投げやりな謝罪の様子とか。観ていると徐々にエネルギーを奪われていく‥‥。

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岡田は人生の漠然とした不安感を安藤に相談する。安藤はかなりいっちゃってる人なのだ。だが、ときに哲学的なアドバイスもする。彼は仕事や夢などはどうでもよくて、カフェ店員のユカ(佐津川愛美)に恋をしていることで自分の心を支えている。

カフェでユカを盗み見る二人だったが、岡田はそこで高校の同級生だった森田(森田剛)を目撃する。役名と役者名が同じというのは偶然にしても怖すぎるわ。久しぶりに再会した岡田と森田はぎこちなく挨拶を交わし、連絡先を交換する。このときの森田は意外と丁寧なんですよね。「岡田君?」と、君付けで普通に話しかけてるし。

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この森田がまあ、本当にヤバいやつでねえ。森田剛さんはよくこの役を引き受けましたね。すばらしかったですよ。すばらしくヤバかった。彼も安藤同様、ユカに想いを寄せていた。だが、それは健全なものではなくユカのストーキングをしている。森田と岡田が話しているのを見たユカは、後日、森田のストーキングについて岡田に相談する。岡田は、それとなく森田を諫めるために岡田を飲みに誘う。

二人が居酒屋で飲んでいる場面がいいんですよね。森田は心ここにあらずという感じで、近況を訊ねる岡田にも適当に返事をしている。ところが岡田が「まあ真面目にやってればなんとかなる」みたいなことをいった途端、豹変するのだ。

俺たちみたいな底辺が何をやったって変わらない。もう人生なんて終わっている。いいかげん、自分たちが底辺であることに気付けよみたいなことをいう。これは彼が挫折し、何度も自問自答を繰り返してきたことなのだろう。だから、するりと言葉が出る。

森田はカフェに入り浸ってユカのストーキングをしていることについても嘘をつく。カフェに行ったのは一度だけという。そのくせ岡田の先輩の安藤を、カフェでよく見かける気持ち悪いやつと罵る。岡田が発言の矛盾を指摘しても、悪びれることなくとぼける。怖いんですよ、これ。

用意周到な嘘ならいいが、あまりに何も考えてない思いつきの嘘を平気でつく様子。彼は世界に絶望しているし、小さな嘘なんてどうでもいいのだ。この時点では岡田は森田が危険な人間だと気づいてはいない。ただ、微妙な違和感は感じている。

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ユカは森田でも安藤でもなく、なぜか岡田に一目惚れ。正気か。目を覚ませ。岡田はそんなにいい男でもないぞと思いました。

頭がおかしい安藤のこともあり、岡田とユカは隠れて交際することに。安藤は安藤で、なかなかねえ‥‥。岡田がユカと付き合ったら「岡田君のこと、チェーンソーでバラバラにしちゃうかも!」って。病院行ってお薬だしてもらって。

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その服どこで買うの。二つに引き裂かれる安藤の心の表現なのかな。

岡田とユカの交際がショックで、職場を無断欠勤した安藤を岡田が訪ねていくと、部屋にはチェーンソーが買ってあるという。ははははは。安藤はショックでこんなんなっちゃいました。

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宇宙からの電波を受信してそう。

ところが実際にヤバいのは森田のほうで、彼は自分の邪魔になる人間を手あたり次第に殺していく。岡田とユカのベッドシーンと、森田の殺害シーンを次々に切り替えていく斬新な演出に混乱する。喜んでいいのか、ビビッていいのか、わからない。

あれはどういうことなのだろう。幸せなことと残酷なことが、この世では同じ時間に起きているということなのかな。

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ユカを演じた佐津川愛美さんがかわいらしいし、ベッドシーンは生々しい。北川景子さんのように飛び抜けた美人という感じでもなくて、背もそんなに高くないんですよね。クラスに一人ぐらいいそうな感じというか。自分と地続き感がするような身近さがあって、岡田を演じた濱田岳さんもそこまで男前というわけでもない。等身大に近い気がするのだ。そんな二人のベッドシーンだから、より生々しさを感じるのかなあ。

ユカと岡田の交際を知った森田はユカを本格的につけ狙い始める。ここで、なぜ森田がこんな性格になってしまったのか、高校時代のいじめについて語られる。彼は犬の糞を食べさせられたり、クラスの女子の前で自慰をさせられたり、かなりひどいいじめを受けている。そして友達だった岡田にも手ひどい裏切りを受けているのだ。二人はそれから疎遠になる。

思い返せば、岡田の鈍さも恐ろしい。彼は森田をいじめっ子に渡すひどい裏切りをしているのだ。普通ならばカフェで再会したときに話しかけられないはず。だが、岡田は意識の奥底にその事実を閉じ込めてしまったのか、完全に忘れているようなのだ。人は自分の悪事について、それほど憶えてないのかもしれない。むしろ岡田は鈍かったのではなく鋭敏で、罪悪感から自分の心を守るために積極的に忘れようとしたのかな。自分が過去にどうやって人を傷つけてしまったか、ちょっと考えてしまいました。落ち込むわー。

森田はいじめっ子に復讐してなぶり殺しにする。だが、岡田の裏切りについては憶えてないんですよね。不思議。あまりにいじめがひどすぎてそれどころじゃなかったのかな。森田が手あたり次第に殺したり、強姦したりしていく様子は生々しい残酷さに溢れている。

殴られて激しく体が痙攣したり、失禁したりする。体を叩く鈍い音も怖い。口を撃ち抜かれて穴が開く。女を犯そうとすると生理用品を身につけている。確かにそういうことはあるかもしれないけど、リアルさを感じて気持ち悪くなるのだ。

暴力にも陰と陽があるのかな。「アウトレイジ」のようにヤクザ同士の殺し合いならば、お互い様ということで気楽に観られる。どっちもがんばれー、という。「アジョシ」や「ザ・レイド」のように華麗な殺し合いの場面は美しさすら感じる。でも、この映画はひたすら生々しく痛々しい。

森田はいじめられっ子で体も大きくない。力もそんなにあるわけでもない。包丁が刺さらず肉に弾き返されて、何度も何度も突き刺す。体重を掛けて包丁を徐々に押し込むように警官に突き刺していく。女の顔にシャツをかぶせ、上から殴りつけてシャツに血がにじむ様子も恐ろしい。女は恐怖と痛さで抵抗をあきらめてしまう。

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岡田の「それ以上罪を重ねるな」という言葉に、森田は心底不思議そうに「なんで? もうどうせ死刑だし」みたいなことをいう。この返しに、岡田はうまく答えられないんですよね。たしかに彼の死刑はもう決まっている。今更一人殺そうが二人殺そうが変わらない。「それ以上罪を重ねるな」という言葉は、守るものがある人間にしか通用しない言葉なのだ。それは家族だったり、会社員という身分だったりするのだろうけど森田には何もない。

森田は世界に絶望している。彼は世界が滅びてもべつに気にしない。森田はあまりに傷つきすぎた。いろいろな人間が彼を少しずつ傷つけた。やがてそれは回復不能な傷となり、手に負えない魔物を生み出したように見える。

守るものなど何もないと思われた森田だったが、最後に彼は犬をよけて事故を起こす。朦朧とする森田の頭に浮かんだのは、実家で飼っていた犬、岡田とゲームをして遊んだ高校時代のこと。それは彼が人間だった頃の最後の記憶なのかもしれない。あまりにも哀れで悲しくなった。

残酷な描写がきつくて観た後、少し気分が悪くなってしまいました。好きな人は、ものすごくはまるかもしれませんね。これはねえ、好みが分かれそうですねえ。わたしにはちょっときつすぎました。自分が過去にして憶えていないかもしれない悪事、それが誰かの人生を変えているとしたらと考えると恐ろしい気もしました。


ヒメアノールの意味(公式サイト)
❝アノール❞とはトカゲの1科である。イグアナ科アノール属に含まれるトカゲの総称。165種ほどがある。(ヒメアノール=ヒメトカゲ)となるが、❝ヒメトカゲ❞とは体長10cmほどで猛禽類のエサにもなる小型爬虫類。つまり、❝ヒメアノ~ル❞とは強者の餌となる弱者を意味する。

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