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旧作映画の感想、ネタバレしてます。
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2017

クリーピー 偽りの隣人

2016年 / 日本 / 監督:黒沢清、原作:前川裕 / ホラー / 130分
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積み重なるかすかな違和感は、得体の知れぬ不気味さに変わる。
【あらすじ】
お隣さんがヤバい人。だが、本当にヤバいのは‥‥。



【感想】
この映画には派手な怖さというのはない。目を覆いたくなるような残酷な描写もそれほどない。殺害場面などもあるのだけど、遠くから撮っているからそれほどでもない。ただ、何かおかしい、何か気持ち悪い、そんな違和感が降り積もっていくのだ。これは斬新でした。

恐怖を感じるのはどんなときだろうというのを考えていた。残酷な場面を目にしたとき、恐ろしい人を見たとき、突然大きな音がなったとき、わたしが思いつくのはこれぐらいだったけど、この映画で新しい恐怖を教えてもらったように思います。とにかく変な映画でしたよ。

こういった映画に資金が集まり、豪華な役者が揃ったこともすごい。あとは観る側が理解できるかでしょうか。

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警察を辞め、犯罪心理学者になった高倉(西島秀俊、中)。大学で教鞭をとっていると、ある日、元同僚の野上が現れ、6年前の一家失踪事件についての協力を求められる。高倉は郊外(東京都日野市)へ引っ越しをする。近所へ挨拶に行くが、隣人の西野(香川照之、左)はどこか不気味さを漂わせる男だった。

不穏な雰囲気ながら、何かが起こるわけではない。これが重要に思える。

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高倉の妻・康子(竹内結子、左)は引っ越しの挨拶で隣の西野家を訪れる。チャイムを鳴らしたが留守なので玄関に袋(挨拶の品)をかけて帰ろうとする。すると西野が姿を現し「その袋なんですか?」と訊ねる。康子は「引っ越しのご挨拶で‥‥」と応えるが西野は「僕が聞いたのは袋の中身はなんですかということです」と、会話が少し噛み合わない。

中身がチョコレートであることを伝えると西野は「チョコレートかあ‥‥」と顔をしかめて答える。甘い物が嫌いそうな反応だが、西野は「チョコレート好きなんです」と受け取る。あれっ? と思う。このチグハグな感じ。この映画にはそんな描写が多い。それが不安感を煽ってくる。

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西野は感情が豹変する。暴言を吐いたかと思えばにこやかに振る舞い、またすぐに無愛想になる。いやあ、気味が悪かった。意外といい人なのかなと思ったり、振り回される感じがするのだ。

だが、さらに気になったのは答えが与えられない不安感なのだ。6年前の一家失踪事件の分析を頼まれた高倉は、失踪事件でただ一人取り残された長女の早紀(川口春奈、左)から話を聞く。

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ここは高倉の勤務先の大学なのだけど、ずいぶん開放的な空間で学生が多く行き来している。外に学生のグループがいて、その中の一人の男子学生が早紀を不意に見つめるんですね。しばらく見つめると、また他の学生との会話に戻る。この人が何かあるかというと、何もないんです。答えが与えられない。考えてみると、こういう気持ち悪さがすごく多い。早紀にしても、話の途中に不意に席を立ってみたり、何か落ち着かないのだ。

高倉の元同僚野上(東出昌大、右)は一家失踪事件の依頼をするとき、高倉に「事件現場へ行きましたね」と問いかける。高倉は大学の研究室の部下? に誘われて一度現場に行っている。だが、それを野上がなぜ知ったかは明らかにされない。また、高倉が大学に職を得たこともどうやってか調べている。べつに隠すようなことでもないのに野上は答えを濁す。濁す意味がわからない。

隣人の西野はたびたび気味の悪さを出してくる。妻・康子は晩の食卓で「西野さんはひどい人」と、高倉にこぼす。翌日、康子が道で西野に会ったとき、西野は「ひどい人間ですみません」と突然謝ってくるのだ。「ひどい人」というのは、ありふれた言葉だ。先日の康子への非礼を詫びただけなのかなと思うが、でも、この言葉の重なりは偶然なのだろうかと疑ってしまう。ひょっとして「ひどい人」という悪口を盗聴していたのではないか。気づく人は気づくが、気づかなくても違和感だけは残るのではないか。しこりの残る描写が本当に多いんですよね。

普通の映画なら後で盗聴器が発見されるのだろうけど、そんな答えは示してくれない。ひたすらに不気味なのだ。西野は盗聴しているのだろう。というのも、西野について「心がない」と悪口をいった隣人の家はのちに放火されることになる。

答えが示されないものだから、こちらはどんどん疑心暗鬼になっていく。考えてみれば、あれもおかしい、これもおかしいとなっていくのだ。これは本当に気味が悪かったですよ。

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西野(右から二人目)はサイコパスであり殺害を繰り返していた。西野家の地下がまあ不気味なんですよね。重苦しい鉄扉を開けた先は見たこともない不気味な壁の部屋になっている。これは西野の心象風景を表したものだろう。

この映画にはまったくリアリティがない。地下の壁のデザインもそうだし、警察も驚くほど間抜けだし、切れ者であるはずの高倉も揃って間抜けなのだ。リアルであることはこの映画にとって重要なことではないのだろう。リアルかどうかより、不気味さが重要なのだろう。

よくわからない場面がある。妻・康子を取り戻しに高倉は西野家の地下を訪れる。鉄扉を開けた先に、落とし穴に落ちた刑事を発見する。今どき落とし穴て、ドッキリぐらいでしか見ないような。西野の姿を発見した高倉は後を追うのだが、西野に鉄扉を閉められてしまう。

普通はここで「くそっ! 西野、ここを開けろー!」と閉じ込められた展開になる。鉄扉は何事もなく開くんですね。開くんかーい! ってなりましたよ‥‥。椅子からずり落ちそうになった。なんのために閉めたのよ。そこは閉じ込めるのが基本ではないか。西野も鉄扉のすぐ外にいるし。うーむ、なにこれ。ここも何か隠された意味があるのだろうか。

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西野は、なんでもいうことを聞く薬(なんだそれ?)を高倉に打ち、他の人間と同じように支配しようとするが、高倉には薬は効かない。銃を持った高倉は西野を撃ち殺して終わりという。なぜ高倉に薬が効かなかったかというと、高倉も西野と同じサイコパスだったからなのかなあ。サイコパスだから薬は効かないという理屈はよくわからないし、そもそも人にいうことを効かせる薬があるのかというのもある。

振り返ってみると、高倉はかなりおかしい人間なのだ。冒頭、サイコパスを説得する場面で、サイコパスに「(自分を信用して)後ろを向けるか?」と問われ、なんのためらいもなく後ろを向いて刺されてしまう。この高倉の無警戒さが怖い。サイコパスを「貴重なサンプル」といってるのも不気味な話。

また、一家失踪事件の被害者早紀のアパートに高倉が押しかけ、執拗に事情を聴く様子は尋常ではない狂気を感じる。彼女が事件の話をしているとき、野上が早紀にコーヒーを出す場面がある。このとき高倉は早紀にコーヒーを勧めないんですね。だから早紀はいつまでたってもコーヒーに口をつけることができない。高倉家に訪れた刑事に康子がコーヒーを出す場面がある。このときも高倉は刑事にコーヒーを勧めない。特にコーヒーが必要とも思えないし、なくても話は進む。これは高倉がコーヒーを勧めない人間であることを示すためのもの(人の気持ちがわからない)なのかな。

単なる偶然なのか、高倉が人の気持ちがわからないことを示すエピソードなのか、どちらともとれるんですよね。で、興味深いのが康子で、彼女は「引っ越したらやり直せると思った」というセリフがある。高倉と康子の関係が破綻していたことをうかがわせる。単純かもしれないが、大きな犬を飼っていて、この家に子供がいないというのも関係があるのではないか。高倉は穏やかだし、康子との関係は良好だと思っていたのに突如覆されて不安になってしまう。説明されない不穏さが映画を覆っているのだ。

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他にも不思議な場面はある。高倉が西野を撃ち殺したとき、西野の支配下にあった澪は嬉しそうに西野を罵倒する。そこまでは良いが、澪は高倉の犬マックスと共に遊びに行ってしまう。いや、そこで、人が撃ち殺されてんのにおかしくない?

この映画のタイトル「クリーピー 偽りの隣人」の「クリーピー」は「身の毛のよだつような、気味の悪い」という意味。そして「偽りの隣人」の部分、この隣人は本当は誰を指すのだろうか。素直に見れば西野だが、高倉、康子、澪、そして野上も薄気味が悪い。西野と高倉はサイコパスだろうが、何事もなかったかのように学校に通い、親の遺体処理をする澪も相当危ない。

引っ越しの挨拶に手作りチョコを持っていく康子ですら怪しく思えてくる。初対面の相手に「手作り」ってどうだろう。料理好きということを考えるとギリギリ許容できるような、ほら、このラインがまた上手いんですよね。日常的なことすら怪しいと思わせてしまう監督の手腕のすごさ。もう何もかも疑心暗鬼じゃよ!

冒頭に書いた新しい恐怖ですが、答えを与えられない違和感もそうだけど、自分で答えに気づいたときが怖い。つまり、高倉がサイコパスであると気づいたときである。今まで感じていた違和感が一気に恐怖へと変わった瞬間だった。だけど、これは映画としてはかなり難しい挑戦に思える。答えが明示されないこともあり、観客の多くはふるい落とされる。実際、この映画のレビューは酷評が目立った。そもそも高倉がサイコパスであるという直接的な証拠は何もない。わたしがそう感じただけだから。

だが、そこかしこに隠された違和感の仕掛けは面白く、珍作と切り捨てるにはあまりに惜しい。気づいてなかった仕掛けもまだたくさんあるだろう。観客を選ぶ映画です。でも、そういった奇妙な映画が映画の世界をより豊かにし、広げてくれるように感じる。

とっ散らかった感想になってしまった。


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