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旧作映画の感想、ネタバレしてます。
26
2017

独裁者と小さな孫

THE PRESIDENT / 2014年 / ジョージア、フランス、イギリス、ドイツ / 監督:マフセン・マフマルバフ / ドラマ / 119分
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一人だけでは独裁者になれない。
【あらすじ】
クーデターが起きたので孫と逃げる。



【感想】
たいへん珍しいジョージア(旧称グルジア)映画です。知らない国を知れるのは映画を観る喜びの一つですね。ジョージアという国名を耳にするのは相撲のときぐらいかなあ。臥牙丸とか栃ノ心とか。

とても不安定な国情なんですね。2008年にはジョージアが南オセチアに侵攻しロシアと衝突(南オセチア紛争)している。この映画はクーデターにあった大統領を描いていますが、1992年にクーデターにより失脚したズヴィアド・ガムサフルディア大統領がモデルになっているのかもしれませんね。独裁者と民衆を描いたいい映画でした。
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とある国の年老いた大統領(ミシャ・ゴミアシュヴィリ、右)が治める国でクーデターが勃発。まだ何もわからない幼い孫(ダチ・オルウェラシュヴィリ、左)と国外へ逃亡するため共に逃げる。

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「ほら、ワシが『消えろ』と命令すれば街の灯りが全部消えるぞ」などと、戯れに街の灯りをつけたり消したりして遊んでいたおじいちゃんと孫。うーん、独裁者ならではの遊び。わたしも是非やりたい。そんな遊びをやっている間にいきなりクーデターが起きまして、国を追われる二人。

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お付きの人間は撃たれたり、逃げ出したり。大統領はみずから孫を背負って逃亡です。序盤は追われつつも、どこかユーモラスですらある。大をしたあと「お尻を洗って」と頼む孫とのやりとりとか。「自分でなんとかしろ」と言うのかと思えば「わたしも自分で洗ったことはない」と言いながら、洗ってやる大統領。

おとぎ話のようにも見えます。孫ちゃん、かわいい。

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大統領は逃亡先でさまざまな国民に出会う。貧しい床屋、誇り高き娼婦、立場を利用して女を犯す軍人、拷問された政治犯。大統領は、たぶん自分がそんなに悪い人間だと思ってないんですよ。自分が治めている国がどのような状況に陥っているか、まったく把握できてない。それが悪だと言われれば、もちろん悪ではあるけど。彼は、暴力を振るったり、残虐な振る舞いをするタイプの悪人ではないんですね。ただ、あまりにも国民の生活に対して無知なのだ。

逃げ込んだ先の床屋で逃亡資金をよこすよう店主に迫るが、彼は貧しく、まったく金がない。それが大統領には信じられない。「おまえたちが税金を払わないから国が貧しくなった」などと言っている。本気でそう信じていたのだろう。

若い頃に買った娼婦の元に逃げ込んだときも、娼婦から「姉を釈放してくれるように手紙を送った」と責められても「そんな手紙は見ていない」と呆然と答えている。彼は嘘は言っておらず、手紙は彼の元に来る前に止められてしまったのだろう。

まさに裸の王様で、彼は何も知らされてなかったのだろう。国民が困窮に喘いでいても、みな幸せに暮らしていると思っていたのかもしれない。こういった独裁者は案外本当にいるのではないか。部下が都合の悪い情報をまったくあげてこないなどは、ありそうだけど。

大統領は娼婦に、懸賞金がかかった自分のことを通報しないのかと訊ねる。大統領は娼婦になら通報されてもいいと思ったのだろう。彼女は「そんな生き方をするなら娼婦になどなっていない」と答える。真っ当な人間が娼婦にならざるを得ない国を作った。そこに彼の罪はあるのかもしれない。

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もっとも印象的なのが軍人がたまたま居合わせた花嫁をレイプする場面だった。部下らしき軍人、居合わせた市民、誰も男の行動を止めずに見て見ぬふりをする。もし彼に意見すれば銃殺されるかもしれない。レイプされた花嫁は、軍人たちに自分を銃で撃つよう迫って殺される。一部始終を大統領は苦渋に満ちた表情で見つめる。

彼は行く先々で、自分が治めた国で何が起きているかを目撃することになる。拷問された政治犯の痛々しい傷を洗ってやり、彼を背負って運んでやる大統領は何を思っていたのか。彼は、政治犯を捕まえて拷問したという報告は受けていたのかもしれない。ただ、それは言葉で聞いた情報でしかなく実感が伴ってなかったようにも思える。足の爪をはがされ、皮膚に貼り付く血塗れの包帯をとりかえる政治犯の苦しみを目の当たりにしたとき、自分は何もわかってなかったと思い知ったのではないか。

大統領を吊るせと叫ぶ人々を前に、大統領を殺すべきではないと言ったのが政治犯の一人だった。政治犯は「大統領の拷問に加担したのはおまえたち軍人だっただろう」と声を上げる。大統領の孫の首に縄が掛けられる瞬間は、胸が詰まる思いがした。

どんなに残酷な独裁者がいても一人では独裁などできない。独裁者を助け、私腹を肥やそうとする人々がいる。多くの利己的な人々が協力して独裁は完成する。逆らう者は吊るされる仕組みが完成してしまえば、それを覆すことは難しい。国民はどう振る舞うべきか、それを問う映画なのかもしれない。

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序盤の二人の逃亡劇はユーモラスで微笑ましくさえある。後半はもうねえ、自業自得とはいえちょっと大統領がかわいそうでもあるんですよね。会う人、会う人が自分の死を願っているという。そんなのなかなかないことですよね。自分を待っていてくれると信じていた政治犯の話も重かったなあ。ちょっと変わったジョージアの映画でした。お薦めですよ。

それにしても孫ちゃん、かわいい。孫の純真さは、大統領が本来持っていた性質にも思える。


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