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旧作映画の感想、ネタバレしてます。
29
2017

ボーダーライン

SICARIO / 2015年 / アメリカ / 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ / サスペンス / 121分
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蚊帳の外から眺めるだけの疎外感。
【あらすじ】
麻薬カルテルの摘発に協力したい。



【感想】
原題「SICARIO」はスペイン語で「殺し屋」の意。

麻薬カルテルを扱った映画は、かなり残酷でシビアな内容になるものが多い。本当にねえ、観た後にぐったりくるんですよね。私の過ごしている人生など、砂糖菓子のようにフワフワしたものだと勝手に落ち込んだりするのだ。

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FBI誘拐即応班を指揮する捜査官ケイト・メイサー(エミリー・ブラント)。前線で戦っているバリバリのエリート。メキシコとアメリカを蝕む麻薬組織ソノラ・カルテル壊滅のための専任チームが組織され、現場経験が豊富なケイトはこのチームにスカウトされた。

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専任チームのリーダーを務める特別捜査官マット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)。会議にサンダル姿で現れても誰も注意できない。ただ者ではない感じがプンプンしますぞ。ケイトにはほとんど何も説明せずに作戦を強行してしまう。

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専任チームのメンバー、どことなく影のあるコロンビア人アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)。迫力が普通ではない。麻薬カルテルにより、妻の首を切り落とされ、娘は酸のプールに突き落とされて溶かして殺されるという。もう設定がハードコアすぎるんだよおおおおお。こ、これだから麻薬カルテルものは怖いんだよ‥‥。

ベニチオ・デル・トロの恐ろしさで映画の格が上がっている。セリフは多くない。だが、そこに居るだけで威圧感を感じる。雰囲気がねえ、すばらしいですよ。黙っているか、戦っているか、拷問しているか、みたいな人ですけども。それなのにジャケットのたたみ方はやたらに丁寧で育ちの良さを感じさせる。そのギャップがまた怖いんですよ。もう、いるだけで怖い! 緊張感を煽る低音で規則的なリズムも映画に合っている。

あと、冗談の通じない感じがすごいよ。舐めたら間違いなく殺される。舐めなくても殺しに来るけど。笑ったことがないのではないか。復讐のためにすべてを捧げていて、一切の感情が死んでいるように見えるのだ。復讐のために生きる人生はどんな感じなのだろう。

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ケイトはアメリカ国内ではFBIの誘拐即応班のトップとして活動していたのだけど、この専任チームではまるで戦力として見做されない。お客様扱いというか。周りで何が起きているかもわからないし、作戦がどうやって進んでいくのかもわからない。そこに苛立つんですね。

観ている方も、ケイトの疎外感を共有することになる。これがこの映画のいい所なのだろう。麻薬犯罪の得体の知れなさというか、巨大、かつ複雑すぎて何がどうなっているかわからない。ケイトがアメリカ国内で培った経験、常識がメキシコではまったく通用しないというのも面白い。

メキシコのフアレスに入った途端、首を切り落とされた裸の死体が高速道路沿いに何体も吊られている光景を目にする。メキシコ流のお出迎えが前衛的すぎるわ。

で、この専任チームのやり方が滅茶苦茶で法律も倫理も関係ない。正義感の強いケイトはFBIの上司に、専任チームが法律を守っていないことを伝えるが上司はまるで取り合わないんですね。「超法規的行動を気にする必要はない」などと言う。言い方はかっこいいが、法律守ってないけど気にすんなということで、気にすんなって言われてもねえ。どうすりゃいいのよ。

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専任チームは麻薬カルテルのボスを殺すためなら拷問も当たり前にするし、交戦規程もまるで守らない。というより交戦規定が存在しないのだ。軍や警察は厳格な交戦規定に従って武器を使用するのが当たり前なのだけど、もうねえ、怪しいと思ったら試しに撃ってみるぐらいの感じでやってますよ。

法律を守っていたら麻薬カルテルを取り締まることなどできないのだろうか。うーむ。何が善で何が悪なのか、観ていてグラグラしてくる。

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真ん中で顔面血だらけになっているのが「ウォーキング・デッド」のシェーン役で大活躍したジョン・バーンサル。この人、よくボコボコにされますよね。「オーバードライヴ」でもボコボコにされてたっけ。デル・トロは挨拶代わりに、この人の耳に指を突っ込んで鼓膜を破ります。シンプル、かつ斬新な拷問。ありそうでなかった。シンプルなやつほど怖いわ。

ドゥニ・ヴィルヌーブ監督は顔面がパンパンになった血だるま描写が上手いんですよねえ。「プリズナーズ」でも犯人と間違えられた男が拷問されて、顔面血だるまになるのである。こういうの好きなのかな。

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この専任チームは単独で行動することができず、FBIと一緒に行動することが条件になっていたらしい。そのため、お飾りとしてケイトの存在が必要だったことが後に明らかになる。建前だけはとりあえず形を整えるところがアメリカらしいなあ。

国内で拷問できないから、キューバから租借していたグァンタナモ空軍基地で拷問していた話を思い出す。グァンタナモはアメリカ国内ではないから、アメリカの法律に従う必要ないのでセーフ! っていう。君ら、頭おかしいぞ。

形を整えるといえば、デル・トロがケイトに「今回の行動は法律にのっとっており、まったく問題がなかった」とサインをさせる場面がある。これだけ無茶苦茶やっておいて書類なんて今更いいだろうと思うけど、そうじゃないんですね。形が整っていることが重要なのだ。

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ケイトはちゃんとサインをする。だって、デル・トロが顎の下に銃突きつけてくるから。サインしなかったらためらいなく撃てる人なんですよ。まったく遊びのない雰囲気で、駆け引きなど持ち掛ける余地はない。従うしかないのだ。この雰囲気を作り上げることができた時点で、映画として大成功といってよいのかもしれない。それほど圧倒的だった。

ケイトが、去っていくデル・トロを背後から撃とうとする場面がある。でも、ケイトは引き金を引けない。デル・トロは抵抗できるが抵抗はしない。もしケイトが撃つなら、デル・トロは自身の死によって自分が抱えている地獄から抜け出せると思ったのかもしれない。

ケイトが撃てなかったのは、このどうしようもない犯罪を終わらせるにはデル・トロのような存在が不可欠と思ったからなのだろうか。この世には綺麗ごとではやっていけない地獄のような場所があって、そこではデル・トロやマットのような選ばれた人間しか生きていけないという。

本筋とちょっと外れたところで、ちょいちょいメキシコの警官の家庭が描写される。子供のサッカーに付き合ってやる普通のいいお父さんなんですよね。彼のようなごく普通の人間が麻薬犯罪に加担している怖さ。断れば殺されるのかもしれない。「12hours DEA特殊部隊」という映画でも、麻薬を押収する作戦の際、警察官たちに「この麻薬を押収しても麻薬カルテルからの報復はない」とあらかじめ説明する場面がある。そこに怖さを覚えた。ということは、麻薬カルテルは平気で警察に報復するし、警察もなるべく麻薬カルテルに関わらないように活動している。報復されるのであれば、出動を拒む警官がいるのかもしれない。警察が麻薬カルテルに対して有効に機能してない様子が描かれている。

最後は主役であるケイトは置いてけぼりで、デル・トロが単身、麻薬カルテルのボスのところに乗り込んでやりたい放題となる。この奇妙さ。疎外感。おまえたちなんか何もわかっちゃいないし、何も解決できない。そう言われているような感じがして黙るしかない。指をくわえて観ているだけなのだ。

トランプ大統領がメキシコとアメリカの国境に壁を築くという政策を出しましたが、現場で麻薬カルテルと戦っている人々はどう考えているのだろう。彼らの意見こそが実効性のある解決法を生みそうだけど。いや、待てよ。ここに出てくるようなしたたかな連中なら、自分の目的を成し遂げるために反対のことだって言うかもしれない。問題が大きすぎて誰もその全貌を見通すことなどできないようにも思える。麻薬カルテルものに興味がある人にはお薦めです。


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