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旧作映画の感想、ネタバレしてます。
15
2017

スポットライト 世紀のスクープ

SPOTLIGHT / 2015年 / アメリカ / 監督:トム・マッカーシー / 実際に起きた事件を基にした映画 / 128分
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問題は本当に隠されていたのか?
【あらすじ】
カトリックの神父の性的虐待を追及する。



【感想】
アメリカの新聞ボストングローブの記者がカトリック教会の神父による児童への性的虐待を追及していく。ボストンはカトリック教会の影響が強く、追及は容易ではない。教会も組織ぐるみで隠蔽を図っていた。信仰心が篤い街の人々も協力的とは言えない。

かなり衝撃的な内容だが描き方はとても抑制の効いたものになったいる。神父による児童の性的虐待場面も描かれない。普通の映画なら、この場面を冒頭にもってきて下世話な好奇心から観客の興味を煽ると思うのだけど。品がいいんですよね。また、このような作品を評価し、アカデミー賞作品賞に選ぶところもすばらしい。

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この事件をとりあげることになったのは新編集長としてマーティ(リーヴ・シュレイバー、左から2人目)が赴任したことがきっかけ。マーティはユダヤ人であり、ボストンの出身でもない。完全に外部の視点だったからこそ、事件の大きさを直観できたのかもしれない。

過去にボストングローブではカトリック教会の神父による性的虐待を2回取りあげてはいたものの、それほど大きな扱いではなかった。ボストングローブの読者の約半分がカトリック教徒ということもあり、読者にとって都合の悪い記事を無意識に避けるところがあったのだろうか。

この映画は内省的視点を強く感じる。教会側に立って被害者との示談を行っていた弁護士を追及する場面がある。「本当のことを喋ってくれ」と記者たちは弁護士に詰め寄るのだけど、この人は実はずいぶん前に神父たち20人を告発する内容を新聞社宛に送っているのだ。

てっきり記者たちは正義の側だと思って観ていたのだけど、その感覚が揺らいでいくのが面白かった。弁護士からすれば、記者に対して「今更何言ってんだよ」と思うのだろう。他に読者の関心を集める事件があったのか、記者は弁護士の告発を黙殺していた。また、被害者団体の代表も同じで、彼は資料を5年も前にボストングローブに送っている。同様にこの資料も黙殺されている。

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当たり前だが、記者は社会正義のためだけに活動しているわけではない。スクープも取りたいし、部数も伸ばさなければならない。新聞が廃刊になれば、不正を糾弾する場そのものがなくなってしまう。利益と社会正義のバランスみたいなのも面白い。

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教会の上層部が神父の性的虐待を知りながら黙認していた証拠をつかんだマイク・レゼンデス(マーク・ラファロ)。このスクープを発表することを要求するが、新編集長マーティやベテランのウォルター(マイケル・キートン)らは時期尚早と反対し、激論になる。

マーティらは神父を追及するだけではトカゲの尻尾切りになると思っている。教会上層部、この腐敗を生んだシステムそのものを糾弾しなければ教会は変わらないと考える。だが、マイクは他社に先行されることを恐れる。それも当然の気持ちなのだけど。

マーク・ラファロはいい役者ですよねえ。たまにちょっとさびしげな顔をすることがあって、それがね。「アベンジャー」シリーズの内気な物理学者ブルース・バナーのようなものから「はじまりのうた」のイケイケなプロデューサー、「クロッシング・デイ」では犯罪から更生しようとする男。どれも味がある。「フォックス・キャッチャー」ではメンターとなって弟を引き上げる優秀なコーチを演じた。いい作品をつかむ勘がすごいですね。好きな俳優です。

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被害者のために戦う弁護士ミッチェル・ガラベディアン(スタンリー・トゥッチ、左)。マスコミ嫌いなのか、まったく取り付く島もない。無愛想でがんこ、だが自分の生活のすべてが被害者の弁護のために向けられている。良かったなあ、この人。

取材が実り、告発記事が掲載された新聞を持って訪れたマイクに対しても「次の依頼人が待っているから」と素っ気ない。かっこよすぎるぞ。こうやって淡々と自分の仕事をやっていく人に憧れる。

ただ、ちょっと気になったのは心理療法士リチャード・サイプとの電話。彼は教会の問題を見抜き、統計的手法によって児童への性的虐待を行っていた神父を90人と推測する。ボストングローブがリストアップした資料は87人と極めて近い。サイプは原因の一つにカトリックの神父が独身であることを挙げる。

人の生理に逆らうような強制が、歪な形となって弱い子供たちに向かうとすれば、神父への独身の強制をやめなければ、これからも児童虐待は発生しつづけるのではないか。また、神父自身が性的虐待の被害者であるという場面も描かれている。ここ、もうちょっと追及してほしかった。ものすごく抑えられた作りになっていて、地味ながら見応えのある作品です。

記者たちも事件を見過ごしてきたし、信者たちも口をつぐんできた。教会側の弁護士もそれに加担してきた。街の人々は見ないふりをしてきた。悪とまで言い切れるかどうか微妙な、それでもかすかな悪事が積み重なってこのひどい事件を隠蔽し続けてきた。だが、それもどうにか陽の目を見たことに救いを感じる。

エンドロールでは、この告発記事をきっかけに判明した神父の性的虐待があった都市が羅列される。多すぎてげんなりする。だが、事件を隠蔽していた枢機卿は転属になっただけで処罰はされていない。それと、カトリック神父に独身を強制し続ける限り、性的虐待の問題は再び起きるのではないだろうか。なかなかね、めでたしめでたしという話でもないですよ。


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