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旧作映画の感想、ネタバレしてます。
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2018

嘆きのピエタ

피에타 / 2012年 / 韓国 / 監督:キム・ギドク / サスペンス / 104分
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持たざる者の罪は、どれほどのものか。
【あらすじ】
借金取りをしています。払えない人は、障害者にして払わせる。



【感想】
初めて鑑賞したキム・ギドク監督作品。監督ではなく、脚本で関わった「レッド・ファミリー」「映画は映画だ」なども面白かったので期待して観ました。借金取りを描いた寓話的な内容で、面白かったです。韓国お得意の残酷描写もなかなかハード。手を工作機械で潰したりします。やめてええええ!

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親から捨てられ、30年もの間、孤独に暮らしてきた男イ・ガンド(イ・ジョンジン)。高利貸しとして生計を立てている。彼のやり方は悪辣そのもので、借金を返せない債務者は障害者にして保険金から借金を取り立てていた。機械で手を潰したりする場面が本当に恐ろしい。こういうの苦手な人は回れ右と言いたいものの、とても良くできているのでこれで切ってしまうのは惜しい作品。

借金で首が回らなくなった町工場の人間の悲愴感がすごい。韓国の町工場って2012年(公開年)はここまで景気が悪かったのかな。債務者を追い詰めるイ・ガンドの表情がすばらしい。一切の感情が死んでしまったような顔をしている。ヤバさが顔から滲み出している。

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彼には家族もいないし、誰かから愛された記憶もない。人の心の痛みも想像できない。持たざる者の強さというか。良心の呵責もまったくなく、債務者を痛めつけていく。

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そんなガンドの元に突如現れた謎の女(チョ・ミンス)。彼女は、幼い頃にガンドを捨てたことを詫びる。母と名乗った女を激しく拒絶していたガンドだったが、しだいに女を受け入れていく。ガンドは母の愛情を試すため、自分の身体の一部を切り取って食べさせ、母を犯そうとする。母はなんでも受け入れる。ガンドの肉を食べるし、自慰行為の手伝いさえするのだ。

ガンドは欠落していた三十年を埋めるべく、貪るように母に依存していく。母を受け入れる速度が早すぎて、あれ、そんなすんなり? ってなりましたけども。こわもてのガンドさんはどこに? ほぼ一瞬でマザコン化してしまうガンドだった。おばちゃんの魅力、恐るべし。

実はこれこそが母の戦略で、彼女はガンドの母親ではなく、自殺した債務者の母親だったんですね。ガンドに愛情を教えることで、ガンドにとって母がかけがえのない存在となる。そしてガンドの目の前で自分が死ぬことによって、彼の心に堪えがたい傷を残すことを望んだ。それが女の復讐だったという。どうやって女がガンドのことを調べたとか、母を受けれいなかったらどうしたのかとか、細かいところをつついていくと、おかしいところは出てしまう。

だけど、リアリティは重要ではないように思える。これは愛情についての物語なのだ。親の愛を知らずに育った殺人犯アイリーン・ウォーノスを描いた「モンスター」を思い出した。このブログでは、何度も「モンスター」について書いてますけども、すばらしい映画なので是非。

愛情を知らないときのガンドは無敵だったかもしれない。どんなに非道な行為も平気でできた。母の愛情を受けたことによって、今まで自分が追い詰めてきた債務者たちの心の苦しみを知ることになる。誰かの愛する者を傷つけてきた意味が、ようやく理解できたのだ。

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金のために飛び降り自殺をしようと階段を上る債務者と、良心の呵責から飛び降りを見ることができずに階段を降りていくガンド。二人を俯瞰でとらえた構図が上下に対称となっていて、とても面白いんですよね。センスいいなあ。悲惨な場面なのだけど。

母(偽者)はガンドを憎み、復讐の炎を燃え上がらせつつも、ガンドに同情もしている。彼があそこまで残酷になれたのは、まったく愛情を知らずに育ったからだということに気づく。はたしてガンドの罪というのは、どれほどのものだったのだろう。

善人と悪人について考えることがある。本当に善人と悪人は存在するのかなと思うのだ。恵まれた環境で親の愛情を受け、友人に囲まれ、いい学校を卒業できた人物がいたとして、普通の教育も受けられず、親からは虐待をされ、歪んだ性格になった人間を責めることができるのだろうか。大部分の人間は、自分が偶然、恵まれた椅子に座っているだけで本当は何もしてないのではないか。罪を犯した人間がいれば「どうしようもない卑劣な犯罪者」と断罪するが、その背景までには目を向けようとしない。もし、自分が同じ境遇で育ったならば、はたして歪まなかったと言えるだろうか。

そう考えると、善も悪もなく、ただその状態にあるだけに思える。じゃあ、悪を許すのかといえば社会がきちんと機能しなくなるから、それはできない。善である強者が悪の弱者を裁き続けることになる。善人は自分が善であることに、なんの後ろめたさも疑問も覚えないだろうけども。この映画は寓話ではあるが、ガンドのような冷え切った心の人間は社会に存在する。

ラストで、ガンドは自分に罰を与える。良心を得たことで彼は死ぬことになった。良心がなければ、今までどおり高利貸しとして生きていけたのに。だが、人間らしく生きることが、たとえ死を招くことになっても価値ある選択なのかもしれない。沈鬱で残酷な描写もありますが、残酷なおとぎ話を読んでいるような不思議な世界観に引き込まれました。好き嫌いがはっきり分かれる作品だと思います。私は面白かったです。

ピエタは、死んだのちに十字架から降ろされたキリストを抱くマリアをモチーフにした絵や彫刻のことです。


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