FC2ブログ

旧作映画の感想、ネタバレしてます。
20
2019

静かなる叫び

POLYTECHNIQUE / 2009年 / カナダ / 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ / 実際に起きた出来事を基にした映画 / 77分 
21__20190320225154886.jpg
考えなければ、なんでも人のせいにできる。
【あらすじ】
モントリオール理工科大学虐殺事件を映画化。



【感想】
『プリズナーズ』『ボーダーライン』『灼熱の魂』『複製された男』などのドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品。『プリズナーズ』はスリリングでとても面白かったですね。この映画はとても重苦しい出来になっておりますよ‥‥。

原題の「ポリテクニーク」は理工科学校の意。1989年12月6日、カナダのモントリオール理工科大学で虐殺事件が起きた。犯人は25歳の男で、半自動ライフルと狩猟用ナイフを用いて28人を銃撃、うち14人を殺害(いずれも女性)、14人に怪我を負わせた後、自殺した(ウィキペディア)。この事件が基になった映画です。

y1__20190320225157298.jpg

犯人(マキシム・ゴーデット)は、フェミニストによって自分の人生を滅茶苦茶にされたと憤り、大学に乗り込んで女子学生だけを殺していく。色もBGMもなく、セリフも少ない。彼が淡々と学生を殺害していく場面を観続けることになる。映画ではなく、犯行の再現をそのまま観ているような気分。銃声が大きく暴力的で恐ろしさを感じる。

先日、ニュージーランドのクライストチャーチで約100人が死傷し、50人が死亡するイスラム教徒を標的にした銃撃事件があった。白人至上主義者の犯人は移民を敵視していた。差別者の一方的な敵視というのはどこからくるのだろうか。こういった犯行には、犯人の思い込みの強さに他の虐殺事件との類似性を感じる。

6V1__20190320225159ad4.jpg

この映画のもう一人の主人公ジャン=フランソワ(セバスティアン・ユベルドー)。冒頭、彼女は就職面接で性差別を受けている。女性はこういった性差別を受けていますよ、という意味もあるかもしれないが、怖いと思ったのは面接官のごく自然な性差別だった。「女は妊娠するとすぐ辞めるから、そういうの困るんだ」という。犯人ほど過激な差別者は少ないだろうが、こういった差別はそこかしこにある。自分も陥りそうで怖い。

犯人が具体的に女性からどういった被害を受けたかは語られないが、女が一方的に男の権利を奪っていると感じている。犯人は男の敵は女で、女が状況を悪くしていると考えている。問題が他にあるとは思わない。男女が揃って人であり、どちらが欠けても社会は成り立たない。男も女も自分で性別を選んで生まれてくるわけではないし、生まれてきた自分をなんとかやりくりして生きていかなければならない。問題を女のせいにしてしまえば楽なんだろうと思う。

就職できないとか、貧しいとか、能力が足りないとか、惨めな状況を認めなくて済む。問題を突き詰めて考えたら、個人の力では容易に解決できないことだってあるかもしれない。移民問題にしても、彼らがなぜ国を出て移民せざるを得なかったか、そのために実際に雇用されにくい状況が発生しているとしても、それは個人の力ではどうしようもないかもしれない。移民とて被害者ともいえる。でも、そのことに気づいてしまったら虐殺はできない。社会問題というのは目に見えないが、移民は目に見えるから撃ち殺すこともできる。

55V1__20190320225200927.jpg

気づかないのではなく、気づきたくないのではないか。気づいてしまえば、女のせいにも移民のせいにもできない。気づかなければ目の前の敵を殺すことに専念できる。本当の問題からは目をそらして、正義は我にありという。

最期、自殺した犯人と被害者の血が混じる場面は残酷だが美しい。私たちは元々は一つのもの、そう言われているような気持ちになる。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督らしい狂暴な作品。面白くなかったです。いい映画だと思います。


関連記事
スポンサーサイト

0 Comments

Leave a comment