FC2ブログ

旧作映画の感想、ネタバレしてます。
28
2019

セールスマン

2016年 / イラン、フランス / 監督:アスガー・ファルハディ / サスペンス / 124分
3L__20190328112002e6f.jpg
語られなかった背後にあるもの。
【あらすじ】
妻が暴力を振るわれた。



【感想】
『別離』『ある過去の行方』のアスガー・ファルハディ監督作品。この作品でアカデミー外国語映画賞を受賞していますが、トランプ政権が一部の国に対し、米国への入国禁止措置を講じたことに反発し、アカデミー賞授賞式をボイコットしています。

イラン映画は文化の違いもさることながら表現の自由が制限されており、ややわかりにくい部分があるんですよね。イラン人のジャファル・パナヒ監督の『人生タクシー』もそうですが、撮影にかなりの制約がありそう。

2V1__201903281120049d0.jpg

二人が暮らすアパートが崩れかかる場面から映画が始まる。いきなりもう不可解なんですよ。なぜ、アパートが崩れるのか、誰がやったのか、そういったことがわからずに「危険だからすぐ避難しろ」と、みんな慌ててアパートを出る。地面を掘り返すショベルカーが映りますが、このひどい工事をやっているのが民間企業なのか、国なのか、そこら辺もはっきりしない。こんな滅茶苦茶な立ち退きをさせたのに訴訟になっていない。なんの追及も説明もなく物語は進行していく。

これは国の工事なのかな。それについて描くと国を批判していることになる。だから何も触れられずにいくのでしょうか。語られない背後にあるものを想像で汲み取るしかない。イラン映画の面白いところではあるものの、あまりにも不可解。

エマッド(シャハブ・ホセイニ、左)とラナ(タラネ・アリドゥスティ、右)の夫婦は友人の紹介で新しいアパートを見つける。電気を点けたらいきなり電球が破裂するし、コンセントはバチバチ光るし、なんだか恐ろしい住宅。でも他にあてがあるわけでもなく、仕方なくここに住み始める。

ラナがシャワーを浴びているとき、夫のエマッドが帰ってきたものと勘違いし、玄関の鍵を開けてすぐに浴室に戻ったところ、入ってきた不審者に襲われてケガをしてしまう。ラナがレイプされたのか、ケガを負っただけなのか、映画では語られない。ラナは警察への通報を拒み、エマッドはみずから犯人を見つけようとする。警察へ通報すれば起きたことを事細かに説明しなければならず、それがラナにとっては堪えられないように見える。イラン人は恥の観念がかなり強いのか、ラナだけが特に強いのか、それもよくはわからないのだけど。

ただ、夫のエマッドがタクシーで女性と相乗りする場面があり、女性がエマッドの隣に座るのを嫌がる場面がある。性について極度に閉鎖的な環境なのでしょうか。しかし、イランは1978年のイラン革命以前は欧米的な服装をしており、ミニスカートの女性も普通にいたのだ。

妻の身に起きたことに対し、夫のエマッドはかなり苛立っている。その苛立ちは犯人だけでなく妻にも向けられている。まるで襲われた妻が悪い、とでも言いたいような。この部屋に以前、住んでいたのは売春婦で、彼女がいると思って訪ねてきた客がこの事件を起こしたようなのだ。

31__20190328112005f94.jpg

エマッドはトラックのナンバーから犯人を割り出し追い詰める。暴力に対する回答に法ではなく暴力を用いたり、被害者であるラナの意見を無視するところにも疑問がある。以前、サウジアラビアの方と話したときに、中東では女は男の所有物という考え方があると言っていた。もっとも中東と言ってもいろいろあるわけでイランがそうであるとは限らないですが。エマッドの怒りはラナの悲しみを置き去りにし、自分の所有物のラナを傷つけられたことが許せないという怒りに見える。

二人は趣味で劇団に所属しているようで、そこでは『セールスマンの死』という舞台がかけられている。しばしばこの舞台が挟み込まれるのだが、本筋とどうかかわってくるのかが理解できなかった。ウィキペディアを見ると「競争社会の問題、親子の断絶、家庭の崩壊、若者の挫折感など、第二次大戦後に顕著になりだしたアメリカ社会の影の部分を鋭くえぐっている」とある。主人公のセールスマン(エマッドが演じている)は自殺したことで住宅ローンを完済するが、妻(ラナが演じている)は嘆き悲しんで幕が下りる。

『セールスマンの死』は資本主義の悪しき面を批判しており、イランが対立するアメリカの死を描いているようにも思える。たしかにアメリカは死につつあるかもしれないが、この作品を観ればアメリカを否定するイランも同様に死につつあるように見える。舞台でエマッドが演じているのが死んだセールスマンであり、彼の暴力に対して暴力という解決法はいかにもアメリカ的に思える。一つアメリカがイランより優れている点があるとすれば、この映画にアカデミー外国語映画賞を取らせるところかもしれない。難しい映画でした。


関連記事
スポンサーサイト

0 Comments

Leave a comment