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旧作映画の感想、ネタバレしてます。
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2019

パーソナル・ソング

ALIVE INSIDE / 2014年 / アメリカ / 監督:マイケル・ロサト=ベネット / ドキュメンタリー、介護、医療 / 78分
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音楽というタイムマシンに乗って。
【あらすじ】
認知症患者に思い出の曲を聴かせる。



【感想】
家族や親しい人が認知症になった人とそうでない人で感想が大きく変わる作品かもしれません。ドキュメンタリーです。

ソーシャル・ワーカーのダン・コーエン(右)は、iPodを使って認知症患者に思い入れのある曲を聴かせれば、曲の記憶とともに当時の自分や家族のことを思い出すのではないか、と思いつく。

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自分の娘の名前すら思い出せない男性、自分が手にしている物がスプーンかフォークか区別がつかない女性、始終何かに怒り続けている女性、曲を聴いた途端、彼らが嬉々として当時の思い出を語りだし、人によっては曲に合わせて踊りだしさえする。その姿は、彼らとまったく関係のない私ですら感動的に見えた。

患者の家族にとってはこれほど嬉しいことはないだろう。私も、家族の意識が混濁して何を話しかけても聞いているのかすらわからない状態になった経験があるので、このときの家族の喜びがどれほど大きいものか想像がつく。これほど嬉しいことはないだろうなあ。

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ダン・コーエンが提唱する音楽療法について、作品中では当たり前ですがとても肯定的に語られる。この作品を観た人は「薬なんかいらなくて、音楽こそ万能薬じゃないか」と思うかもしれない。たしかに音楽療法には認知症を改善する可能性はあるように見える。

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音楽だとか、匂いには記憶を呼び起こす特別な効果があるように思える。部活や受験のときによく聴いていた曲、学生時代に友人とテープを交換しあってよく聴いた曲などは、今聴いてもその時代に返り、さまざまな記憶がよみがえるのだ。

認知症患者たちが当時のことを生き生きとして語りだすと、認知症の症状が改善したように映るかもしれません。だけど、本当にそうなのだろうか。曲を聴いているときと、その後のわずかな時間だけではないだろうか。私たちが懐メロを聴いて「あの頃は、ああだったね」と語る、ほんの少しだけ昔に返る、それが認知症患者にも起きているだけで本質的に認知症の改善になっているかどうかまではわからない。一瞬だけ元気になる薬を投与しているかのようにも見えるのだ。音楽療法が万能だと信じ込んでしまうと、患者の家族はかえって失望するかもしれない。

認知症がどう起きているかはわからない。人の記憶は分厚い本のようなもので、認知症患者は目次の部分が消去されていて、目的の章にたどりつけないだけかも。音楽は一瞬だけ、その目次を浮かび上がらせるようなものなのかな。

認知症の症状は「中核症状」と「BPSD(行動・心理症状)」に分けられる(認知症フォーラム.com)。大雑把にいえば、中核症状というのは物忘れ、BPSDというのは周囲との関りのなかで起きてくる症状で、暴言、暴力、興奮、抑鬱、不眠、徘徊、幻覚、不潔行為、譫妄、多食、失禁など、さまざまな症状が現れる。

少し気になるのは、作品中の誰も彼もが音楽療法を褒めすぎるところ。家族にしてみれば目の前で奇跡が起きたと思うだろうし、それも無理はないけれど。

たしかに音楽療法はBPSDを和らげるのに、ある一定の効果が見込めるかもしれない。しかし、彼らが嬉々として語り出したことは過去の記憶だけで、現在の状態についてどの程度認識しているかはっきりしない。またちょっと時間が経てば元の状態になってしまうかもしれない。音楽療法が本当に症状の進行を食い止めるか、治療になっているかも不確かで、それはまだデータがないから仕方ないのだろうけど。もちろんBPSDの緩和が、たとえ一時的なものだったとしても介護する側はとても助かる。

音楽療法というのは万能で、これで認知症ケアもだいぶ楽になるね、というような単純な受け取り方をしないようにしたい。患者や患者の家族に誤解してほしくないし、過度に期待してガッカリしてほしくないのだ。もう十分に苦しんでいるだろうから。だからこそしっかりとデータを積み上げて音楽療法を確立してほしい。今後も継続して追い続けてほしいですね。少しでも認知症患者と、その家族の苦しみが軽減されればすばらしいことだと思います。音楽が奇跡を起こす可能性はあると信じています。


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