FC2ブログ

旧作映画の感想、ネタバレしてます。
12
2019

ファースト・マン

2018年 / アメリカ、日本 / 監督:デミアン・チャゼル、原作:ニール・アームストロング / 実在の人物を基にした映画 / 141分
lAL__20191113142543ff6.jpg
何用あって月世界へ。
【あらすじ】
月に行きたい。



【感想】
『セッション』『ラ・ラ・ランド』のデミアン・チャゼル監督作品。この人の作品は張り詰めていて、観ていて純粋に楽しいという作品ではないものの、不思議と目が離せない魅力がある。みずからがメガホンをとった作品はすべて脚本も担当してきたものの、今作では脚本はジョシュ・シンガーに委ねている。ジョシュ・シンガーはウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジを描いた『フィフス・エステート/世界から狙われた男』や、『スポットライト 世紀のスクープ』など緻密な調査を必要とする実録ものを得意とする脚本家。今作でも随所に緻密さを感じました。

ちょっと時間が長くて(141分)ですね、正直、少し眠くなったというのはあった。やや難解な作品だと思います。主人公が何を考えているかわからんよ‥‥。

jhgAL_.jpg

『ラ・ラ・ランド』でタッグを組んだライアン・ゴズリングが主演。人類で初めて月面に降り立った宇宙飛行士ニール・アームストロングを演じています。ライアン・ゴズリングの沈鬱な表情がすばらしい。もうねえ、本当に何を考えているかわからないんですよね。

今までの宇宙ものはアメリカの宇宙開発、NASAの成功譚だったり、宇宙飛行士の英雄譚として描かれたものが多い。今作はニール・アームストロング個人やその家族に焦点を絞った作品。宇宙船内部の描写が多く、外から宇宙船を描いた映像が少ないのも、ニールの視点を強調したからでしょうか。宇宙船が軋む音が重苦しくて息が詰まる。月に行けて良かったね、万歳! という作品ではない。ニールが寡黙なこともあり、何がしたいのかわからんという。難解でしたよ。

何がわからないかというと、ニールの月へ行く動機なのだ。もちろん人類で誰も到達したことのない月面に一番に降りたいという動機は、一応は理解できる。でもそれは表向きの理由に思える。当時のアメリカやソ連が目をキラキラさせて純粋に月を目指していたかというと、もちろんそんなことはない。宇宙開発の技術はミサイル技術へ応用可能であり、相手の国へミサイルを撃てますよという暗黙の示威行動に繋がっている。米ソは冷戦中、お互いの技術力を宇宙開発で競っている。だから死亡者が続出しても、莫大な費用がかかってもやめようとしない。危険を省みない宇宙開発競争は冷戦がもたらした緊張の上に成り立っていた。



子供の頃に『栄光なき天才たち』という漫画を読みましたが、現在、復刻されているようですね。この本は宇宙旅行の父と言われたツィオルコフスキーから、冷戦までの宇宙開拓史がわかりやすくまとめられている。面白かったです。

とまあ、上記は国同士の事情でニールの宇宙への情熱がわからないんですよね。そもそも本当に情熱があったのかもよくわからない。

ooL__201911131425464aa.jpg

夫婦は幼い娘を病気で亡くしている。ニールは治療法を調べ、手を尽くしたがそれでも娘は治らなかった。娘の死が影響したのか、妻との間に溝が生じたようにも見える。また娘以外の子供たちも、夫婦が娘にかかりっきりだったせいか愛情不足による溝ができてしまった。

hgV1_.jpg

NASAのテストや実験は過酷で何人もの同僚が事故で命を落としたり、危険な目に遭っている。ニールも何度か死にかけている。奥さんは精神状態が不安定になってしまう。それでも彼はパイロットを辞めようとはしない。国民からの期待、政府からのプレッシャーなどいろいろあったかと思うが彼はマイペースなのか、そういった要素が彼を悩ましたようには見えない。黙々と、だが憑りつかれたように仕事に没頭していく。観ていて不安になるというか、宇宙飛行士というのはもっと希望に満ちているイメージだったんですよね。なりたくても誰もがなれるような職業ではない。エリート中のエリートで子供が憧れる職業でもある。でも、ニールも妻も、まったく幸せそうではないのだ。張り詰めたロープの上を渡るような、いつ落ちてもおかしくない緊張感にさらされて生活している。なぜこんなにつらそうなのだろう。

実際のニール・アームストロングが何を考えていたかは当然、本人しかわからないのだけど、今作のニールは月面への到達という情熱の影に、娘の死からの逃避が潜んでいたのではないかと思える。訓練ではニールのせいではなく技術的なトラブルから、彼は何度か命を落としかける。怒って当然の状況だが、それでも彼は声を荒げることはしない。

宇宙飛行士の適性で冷静さというのは重要な要素だし、もし声を荒げるような人格であれば宇宙飛行士から外されるということがあるのかもしれない。それにしても彼は冷静すぎるように見えたのだ。死んでもかまわないように思える。彼はひょっとして死んで娘のそばに行きたかったのではないか。

nnAL_.jpg

アポロ11号に乗る前日、妻から強い調子で息子たちに声をかけるように言われる。彼は息子たちとも距離をおいていた。もしかしたら、もう帰って来られないかもしれないということを告げる。末の息子はハグを求めるが、長男はそっと手を出して握手をするんですね。ああ、この子はニールが見ていない間に大人になっていたのだと思わされた。悲しいんだけど、とてもよくできた場面ですね。

ニールは月面に降り立ち、娘の遺品を月に置いてくる。本当にこんなことをしたとは思えないのだけど。ずっと彼の心はボロボロの宇宙船のように軋んだ音を立て続けていたのではないか。月に行ったことで、彼に安らぎは訪れたのか。

oiL_.jpg

華やかな月面着陸という偉業の裏側で、何があったかは本人たちにしかわからない。ニール・アームストロングという個人、家族というミクロの視点からアポロ計画を捉えたちょっと変わった映画でした。重苦しく、退屈に思える部分もありましたが惹きつけられる作品でした。宇宙船がバラバラになりそうで怖かった。デミアン・チャゼル監督は本当に緊張感を与えるのが上手いですよね。性格が悪いのか。嫌がるツボを押してくるのが上手い。


関連記事
スポンサーサイト



0 Comments

Leave a comment