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旧作映画の感想、ネタバレしてます。
09
2020

あるメイドの密かな欲望

Journal d'une femme de chambre / 2015年 / フランス、ベルギー / 監督:ブノワ・ジャコー、原作:オクターヴ・ミルボー /  サスペンス / 96分
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この世は逃れられない地獄。
【あらすじ】
メイドとして働いているが、だいたい口説かれる。



【感想】
使用人と貴族の関係を描いた名作ドラマに『ダウントン・アビー』がありました。あの貴族の家でなら使用人として働くのも悪くない、なんて思える。あれと同じものを求めると、とんだ煮え湯を飲まされるという。かなりグツグツに煮えております。なんだかねえ、最初から最後まで虐げられる人を観続ける。

原作はフランスの小説家オクターヴ・ミルボーの『小間使の日記』。1900年の作品なんですね。また、古いものを引っ張り出してきましたね。どおりでというか、登場人物の感情がちょっとわかりにくいのだ。登場人物は嫌な人ばかり。

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パリからやってきたメイドのセレスティーヌ(レア・セドゥ)。屋敷の主人ランレールから関係を迫られ、妻のランレール夫人からはいびり倒されるという。セクハラとパワハラ、両方あじわえる職場です。地獄や。

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妻の目を盗み、しつこく口説いてくるランレール(右)。

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距離が、ち・か・い! 奥さんに言いつけると言うと、洋ナシを渡してすまそうとする男。「また持ってくるよ」じゃないわ。

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こちらがランレール夫人。針を持ってこいと言うから持っていけば、次は糸を持ってこいと言う。糸を持っていけばハサミを取ってこいと言う。「まとめて言わんかーい!」ってなりますよ。ま、セレスティーヌも気が利かんといえばそうなんだけど‥‥。階段を往復させられて息切れし、手すりにもたれるセレスティーヌの姿を見たランレール夫人は「あなたの仕事は散歩じゃないのよ」と言い放つ。刺していいと思いまーす。

なんでみんな、意地悪なの‥‥。ヨヨヨ‥‥。

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セレスティーヌにとって、唯一の救いは病弱なジョルジュ(右)だったかもしれない。身分を乗り越えての恋はこの時代は珍しいのだろう。まさにジョルジュと結ばれようと、彼の上にまたがった瞬間、ジョルジュは血を吐いて絶命してしまう。死に方、壮絶すぎるのでは。

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セレスティーヌは聡明で美しい。でも、彼女の美が不幸にも彼女を苦めているように見えた。男たちはみな彼女を性的な目で見て、金や権力に物を言わせて口説いてくる。美はいつの時代も刀のようなもので、その輝ける刃で己も相手も傷つけてしまう。取り扱いが難しい。

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セレスティーヌを娼婦に雇おうとした女が去った後、セレスティーヌの瞳から一筋の涙が流れる。この涙の意味はなんだろう。この時代に女性が独立して生きていくのは難しい。ランレールのようにセレスティーヌを口説こうという男たちは鬱陶しいし、じゃあ、女が味方になってくれるかといえばそうではない。夫をセレスティーヌに盗られることに脅え、彼女を憎んでつらく当たる。彼女を男に売ろうとする女もいる。

男を憎みつつも、愛人になるか、雇われなければ生きていけない。どうやっても逃れることなどできない。その諦めがセレスティーヌの涙ではないか。

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場面場面が印象に残る作品でした。なにげない情景が美しいんですよね。手前の一輪の花と洗濯籠を持つセレスティーヌ。

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寒々しい石造りの家も、光射す中庭が借景となって美しく映る。テーブルに置かれた瓶やタライ、壁にかかる時計、鍋なども絶妙なバランスで配置され、絵画のような美しさがある。

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美しい植物が多く出てきて心が和む。人間と違って‥‥。

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セレスティーヌは共に働いていたジョセフと、屋敷の銀食器を盗んで逃げる。そのお金を元手にジョセフは商売をやろうと考える。ジョセフの態度は高圧的で、彼女に優しくするようには見えないんですよね。彼女がジョセフを愛した理由がよくわからない。

彼女は「支配される喜びを感じていた」とナレーションが入る。本当に支配される喜びなどあったのだろうか。男女差別がひどい世の中で、頭にきてもどうにもならなくて、打ちひしがれた末にでた皮肉に思える。だから彼女は娼館の女と話した後で涙を流したのではないか。セレスティーヌが求めていたのは、ジョルジュとのようなごく当たり前の恋愛だったのではないか。

レア・セドゥが終始、不機嫌で、そりゃこの状況だったら不機嫌になって当然ですけども、あまり彼女の心が読めないんですよね。

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そのわかりにくさも込みで、面白い映画でした。

ジョセフについてですが、彼はユダヤ人を批判する冊子を作っている。この時代のフランスは普仏戦争で敗北し、国情が不安定になっている。1882年には金融恐慌も発生し、資産をなくした人々がユダヤ人をスケープゴートにして反ユダヤ主義が高まった。ユダヤ人の国を作ろうというシオニズム運動も、ヨーロッパでユダヤ人迫害があった19世紀末から始まっている。私は世界史に疎いのですが、知識があればより楽しめるのかもしれません。彼女がユダヤ人に同情的と思える発言をしたのは、自分も迫害を受ける立場だったからなのかな。それでも彼女は、ユダヤ人嫌いなジョセフに支配されて生きるしかないのだ。


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