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2013

海炭市叙景

2010年 / 日本 / 監督:熊切 和嘉 / ドラマ
曇天から射す一条の光。
【あらすじ】
函館出身の作家佐藤泰志の小説「海炭市叙景」を映画化。ただ生きる、それが難しい。函館市をモデルにした架空の街「海炭市」。海炭市で生活する人々の群像劇。 


【感想】
こういった重苦しい作品が、函館出身の作家から生まれたというのは腑に落ちる。この重苦しさは南国にはない空気なんですよねえ。「バナナがあれば、なんとか生きていける! ウホッ!」という南国の気楽さだと、ここまで深刻にはならない。南国の人から怒られそう。

出てくる人たちが「つらいです、このままじゃ駄目です‥‥」という人ばかりでねえ。造船が生き甲斐なのに、造船所をリストラになった男。妻は浮気し、息子は口をきいてくれないというプラネタリウムに勤める男。先代から街のガス屋を引き継いだがうまくいかず悩む社長。立ち退きを迫られるおばあちゃん。

人生は楽しいだけのものでもないし「今は苦しいけど必ずよくなるよ」などと言えないところがつらいですね。で、みんなそんなことはわかっている。だから、暮らしの中に小さな光でも見つけようとするのだろう。でも、この映画の登場人物たちは光を見つけようとしていない。それがとてももどかしくもある。苦しい中にあれば、そういった考えすら浮かばず、生活に押し流されていくのかもしれない。


ガス屋の社長役の加瀬亮が本当に怖かった。やることなすことうまくいかない。扱っている浄水器は売れないし、部下も今ひとつ出来が良くない。奥さんとも不仲。だから作品中は、ほぼ不機嫌。部下の報告を無言で聞くところとか、浄水器の営業に怒るとことか、怖すぎる。この人が上司なら、アタイ、会社辞めます‥‥というレベル。

簡単に一線を越えてしまう人間の怖さが、すごくよく出ていた。奥さんに暴力を振るう場面では、突然すぎてなぜか笑ってしまった。ためらいなく顔面にいくからなあ、加瀬亮は。ここだけアウトレイジである。そんなDV浮気男でありながら子どものことは愛してるし、仕事の責任感はある。本当に純粋な悪人、それこそサイコパスのような人などほとんどいなくて、境遇、経済状態、弱さが影響しあって人を悪人においやってしまうのかもしれない。

ちょっと笑ったのがヤクザのところにガス代の集金に行くエピソード。加瀬亮がガスタンクの交換作業中にタンクを自分の足に落としてしまう。タンクの重さで指先がつぶれ、痛さでうずくまっている。そこにガス料金を滞納しているヤクザが現れる。

で、タンクをどかすのを手伝ってくれるのかと思いきや「ほれ」と火のついたタバコを吸わせてくれる。いや、もう、タバコどころじゃ。足の指つぶれてるから。でも、加瀬亮は一応、一口だけタバコを吸うんですね。なにその変なつきあいの良さ。

この映画、始終重苦しいのだけど、まったく希望がないわけでもない。きれいな日の出を眺めたり、いなくなった猫が見つかったりする。そういう微かな光を支えにして人は生きていけるのだと思う。ただ、光を探すことだけは自分でしなければならないのだろう。苦しいときほど、光を探すことを忘れがちになる。
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