05
2014

映画「預言者」

預言者
Un prophète / 2009年 / フランス、イタリア / 監督:ジャック・オーディアール / 犯罪

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預言者への血塗られた道。
【あらすじ】
19歳で投獄されたアラブ系青年マリク(タハール・ラヒム)。刑務所での使い走りから、組織のボスに成り上がるまで。


【感想】
62回カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを獲得。カンヌの映画は難しいですよね。殴って、蹴って、首がスパーン!と飛んで、悪人高笑いでワッハッハ!というバカご用達みたいな、そういうわかりやすさがない。わたし向きではないなあ。犯罪を通して成長する青年マリクの物語。

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刑務所で出会ったコルシカ系囚人グループのボス、セザール。まあ、悪い人ですよ。ちっこい熊みたい。マリクに目をつけ、刑務所内で人殺しをさせようとする。看守に訴えてもセザールに買収されている。セザールの有無を言わさぬ迫力と、コルシカ系囚人たちの脅しによって、マリクは自殺するか相手を殺すかの二者択一を迫られる。

マリクは殺人を犯したくないので、わざと暴力事件を起こして懲罰房に入ろうとするが、それさえもセザールによって防がれてしまう。本当に逃げ場がないのだ。マリクが殺人の練習をする場面が重苦しい。刑務所内では当然武器は使えない。カミソリの刃を口に含み、隙を見て口から出す練習をする。何度も口の中を切って、血を吐きだすのだ。腹が立つことはあれど、誰かを具体的に殺す練習をしたことがある人は少ないだろう。マリクの自責の念、殺人の恐怖、変えようもない状況に対する閉塞感が伝わってくる。

で、殺す相手のレィエブが、そんなに悪い人でもないんですよ。
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レィエブ(左)はアラブ系の男。文字の読み書きができないセザールに読書を勧める。マリクは刑務所内で自分の身を守るため、レィエブの頸動脈をカミソリで切って殺す。凄惨な場面。この映画の不思議なところは、レィエブを殺したことに対する報いがマリクに訪れないことである。むしろレィエブを殺してから、マリクは不思議な霊感を得て未来を見ることができるようになる。

殺人という究極の悪を為したことで、彼の運命は開ける。これはどうしてなんだろうと、ずっと思ってたんですよね。善を為したことで悪いことが起きることもあれば、悪を為して運命が開けることもある、そんな人生の皮肉さを表したのだろうか。

そして随所に、マリクとムハンマドの相似点をうかがわせる。イスラム教でもっとも有名な預言者というと、イスラム教の開祖ムハンマドである。文盲だった可能性があり、猫好き、未亡人と結婚、アラブ部族の調停をした点がマリクを思わせる。マリクも文盲である。コルシカ系囚人とアラブ系囚人をうまく渡り歩く。猫は最後の場面で子供の口から出るし、未亡人もマリクを出迎える。マリクと未亡人、子供の後ろに見える組織の人間は、彼に付き従う信者を思わせる。

ムハンマドに神の啓示を伝えた天使ジブリールは、サフラン色の髪をしている。レィエブの髪も似た色である。レィエブがジブリールの役目なのだろう。レィエブはマリクに啓示を伝える導き手である。だから、マリクはレィエブを殺しても罰せられなかったのだろうか。

頼りなかった青年が度重なる窮地をくぐり抜けて成長していくさまはスリリングで面白かった。だが、なぜムハンマドを暗示させるのかは最後までわからなかった。マリクが現代のムハンマドであるというわけでもないように思う。マリクに、そこまでのカリスマ性や強さを感じない。ちょっと神秘的要素を入れたかったのかなあ。あと、イスラム教の人が怒らんのか。ムハンマドはマフィアではないのだし。いろいろとわからない。

ほらー、カンヌわけわからんて言ったじゃんかあ。殴って、蹴って、首がスパーン!じゃないからなあ。解説が欲しい映画です。

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