06
2014

映画「偽りなき者」

偽りなき者
Jagten / 2012年 / デンマーク / 監督:トマス・ヴィンターベア / ドラマ

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押された烙印は決して消えない。
【あらすじ】
デンマークの小さな田舎町。子供に人気のある幼稚園教師ルーカスは、友人に囲まれ、職場でも楽しく過ごしている。離婚はしているが、一人息子とも仲が良い。ある日、彼に幼稚園児への性的虐待の疑いがかかる。


【感想】
原題「Jagten」はデンマーク語で「狩猟」の意味。「偽りなき者」という邦題のほうがしっくりくるように思いました。

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とにかく主演のルーカス(マッツ・ミケルセン)に尽きますね。「プッシャー2」では、下の写真のチンピラを演じてたのに、ここまで変わるなんて。

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後頭部に「RESPECT」などとタトゥーを入れておったよ。誰がこんなアホアホマンを尊敬できるのかという。本当に同じ人とは思えない。今回のマッツ・ミケルセンは感情の抑制ができる理性的な人である。

で、映画はとても重苦しいんですよ。ルーカスと友人のテオ(トマス・ボー・ラーセン)は家族ぐるみの付き合いをしている。テオの娘クララ(アニカ・ヴィタコプ、右)はルーカスにとてもなついている。

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ルーカスのことが好きなクララは、ルーカスの口にキスをするけれど「そんなことはしてはいけない」と優しくたしなめられる。それで、ちょっとむくれちゃうんですね。ルーカスを少し困らせてやろうと、クララは小さな嘘をつく。何気ない嘘がとんでもない結果に繋がっていく。

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子供が嘘をつくわけがない、その思い込みから、幼稚園の園長や母親はルーカスを変質者と決めつける。小さな町で噂は火のように広がり、ルーカスは職を失い、友人を失う。暮らしに必要な食料さえ売ってもらえなくなるのだ。

子供が嘘をつかないか、自分の子供時代を振り返ってみれば、わかりそうである。注目を浴びたいとか、親に褒められたいとか、どうしようもない理由でいくらでもくだらない嘘をつく。あれ、つきますよね?つかない?つかないの?

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クララはクララで、自分が言ったことの意味があまりよくわかってない。ただ、大変なことが起きているという自覚は子どもながらにある。だが、子供だしどう解決していいかわからないのだ。勇気を出して、母親に「ルーカスは何もしていない」と訴える。でも、母親は性的虐待があったと決めつけているから、辛い記憶を思い出さないようにしているだけだとクララを逆に説得してしまう。

この事態の悪化のしかたが本当に恐ろしかった。

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ルーカスは暴力を振るわれるわ、家に石を投げられるわ、ペットは殺されるわ、もう滅茶苦茶である。支えてくれるわずかな友人と息子がいたために自殺しないで済んだのだろう。これがもし誰からも信じてもらえなければ、死んでもおかしくない。この小さな共同体では逃げるところなどない。

これが本当に起こりえない事件かというと、そうは思えない。痴漢冤罪事件などもそうだろう。自分がルーカスになることも、周囲の人間になることもある。たとえ冤罪だと証明されても、その人を色眼鏡で見ない自信があるかというと難しい。心のどこかで「本当はやっているのではないか」と思うのではないか。自分は、そんなふうに思わないと言い切れる自信はない。

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クララの父であり、ルーカスの親友であるテオ(右)は、ルーカスを信じたくて苦しむ。テオとルーカスは、物語の序盤の宴会では隣同士に座っている。ルーカスの性的虐待の疑いが晴れた後の宴会では、みなにこやかに振舞っているが、テオとルーカスの席は離れているんですよね。もう二人の距離は埋まることがないのだろう。

事件は解決して、表面上は村に平穏が戻ったように見える。鹿猟の最中、ルーカスは村の誰かから銃撃を受ける。逆光なので誰が撃ったかはわからない。これは誰が撃ったかということは重要ではない。当事者同士が和解した後にさえ、ルーカスを信じることができない者がいるということが問題なのだ。一度押された烙印は消えることがない。

この町の人間がやったことは、法律を無視した私的制裁である。だが、それと似たようなことを自分がやらないとは限らないのだ。ネットでの無責任な書き込みや誹謗中傷もそうだろう。冤罪の被害者を、加害者のような目で見てしまうのもそうだろう。偽りなき者のまなざしが、心に残る映画でした。

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