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2014

ONCE ダブリンの街角で

ONCE / 2006年 / アイルランド / 監督:ジョン・カーニー / 音楽、恋愛
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光はどこへでも射し込む。音楽と純朴な人々。
【あらすじ】
ダブリンの街角で歌うストリート・ミュージシャン(グレン・ハンサード)。彼の音楽に興味を持ち話しかけた花売りの女(マルケタ・イルグロヴァ)。二人を繋ぐものは音楽だった。



【感想】
舞台はアイルランドのダブリン。ストリートミュージシャンのグレン(役名がないので役者名で呼びます)は携帯電話も持てないほど貧しく、商売道具のギターには大きな穴が開いている。なので、麻薬映画だと思いましたよ。貧しいとだいたい麻薬、ギャンブル、暴力、売春のフルコースになる。

冒頭、主人公が路上で歌っていると、チップが入っていたギターケースを若者が奪って逃げていく。来たぞ、来たぞおと思っていると、主人公は若者を追いかけてギターケースを取り戻す。だけど「俺はこれで食べてるんだから、やめてくれよ」としか言わないんですね。

主人公は若者に馬乗りになってボコボコにしたりしない。銃で頭を撃ち抜いて、死体をバラバラにして、こんがり焼いたりしない。ふだん、どんな映画観てんだという話ですが。穏やかな始まり方に驚きました。

若者も主人公も貧しい。若者は若者で図々しくて、泥棒しておきながら「5ユーロちょうだい」などという。すごいな、ハートの強さだな。たった今、泥棒しておいてよくいえたな。で、5ユーロ上げる主人公。上げるのか‥‥。泥棒もユーモラスなんですよね。ジョン・カーニー監督の映画は嫌な人が出てこない。みなどこか温かさを秘めているような。

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彼の演奏を聴いていたチェコからの移民マルケタ(役名ないので役者名、右)。マルケタもグレン同様貧しく、家に電話もない。マルケタはチェコにいたときはピアノをやっていたが、アイルランドに移ってからはピアノを買うお金もない。貧しいのは登場人物だけではない。低予算(15万ドル)で撮られていて撮影も質素なのだった。手持ちカメラでブレブレのときもあるけど、そこに逆にエネルギーを感じる。

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マルケタの知り合いの楽器屋で二人で即興のセッションをする。これがねえ、本当に楽しそうでいいんですよ。演奏している間の二人は貧しさを吹き飛ばし、あらゆるしがらみから解放される。貧富の差、社会的地位、性別、家柄、悩み、あらゆるものは消え去って、ただただ純粋に音楽を楽しんでいる。この状態は幸福の一つの形なのかもしれない。

また、楽器屋の人もさり気なく親切ですし、一見堅そうに見える銀行の融資担当、録音エンジニア、マルケタの家にテレビを見に来る隣人たち、アパートの前でたむろしてる人々、みんな温かい。そんなにいい人ばかりじゃないのはわかっているけど、それでも観ていて楽しくなる。

この映画、いい人しか出ないですね。だまされて内臓を売られたり、セメントをゴクゴク飲まされたりしないのだった。安心。

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街で見かけた他のストリートミュージシャンをスカウトして、録音のリハーサル。劇中に出てくる歌もいいですし、音楽で人々が繋がっていく様子は嬉しくなります。

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恋愛映画というと、付き合うことやセックス、結婚がゴールになることが多い。でも、この二人は音楽によって結びついた同志のように見える。時としてそれは恋愛よりも、はるかに強い結びつきが得られるのだろう。

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父親(右)とグレンの関係も良い。家で練習しているときにヨロヨロとお茶を運んできてくれたり、主人公の背中を押してくれたり。理解し尊重しあえている様子がいい。たまらん。

これほど純朴な人々が集う映画というのは珍しい。オー・ヘンリーの短編集のような懐かしさを感じました。誰にでも薦められる映画というのは少ないですが、この映画はそんな一本です。劇中の音楽がとてもいいですよ。好きな映画です。


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