27
2014

映画「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」

男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け
1976年 / 日本 / 監督:山田洋次 / 人情噺

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やっぱり怒っている人は面白い!
【あらすじ】
お金をだまし取られた芸者を助けたい。


【感想】
ヒゲを生やして鬢(びん)に白髪が混じった寅さん、静かに海をにらむ。この映画は17作目ですが、寅さんてこんなだっけ?と思えば、なぜか「ジョーズ」のパロディから映画は始まるのだった。
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佐藤蛾次郎演じる源公が鮫に下半身を食べられ、妹のさくら(倍賞千恵子)は気が狂ってしまう。なんだこの始まり方。山田監督、いきなりふざけましたね。2時間、このままだったらどうしよと思いましたが寅さんの夢でした。2時間このままなら、それはそれで楽しい気も。ジョーズの公開が1975年で、この映画の一年前だからなのでしょう。

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で、寅さん、いつものように飲み屋にいたら、貧しそうな老人(宇野重吉、右)を見つけて家に連れて来てしまう。鰻を食わせろとか、風呂を沸かせとか、けっこう言いたい放題の老人なのだ。寅さんの家を旅館と勘違いしていたのだけど。この人が偉い日本画の先生で、お礼に一筆書いた落書きのようなものに7万円という値段が付く。

このエピソードは落語みたいですね。左甚五郎が宿屋に逗留して、宿賃がないから竹で水仙を作ったら大変な値段が付いたという話に似ている(竹の水仙)。宇野重吉と寺尾聰親子の共演も観られます。

池ノ内青観(宇野重吉)は播州龍野で「先生、先生」と歓待される。以前、勤務先に偉い人がいて、その人は役職で呼ばれることをものすごく嫌がっていた。ある日、呼び出されて「今後、僕を役職で呼ぶことは禁止します。役職は人間ではないのだ」とおっしゃった。青観も、絵を描くという能力だけで周りがチヤホヤしてくれるだけで、自宅でも外でもまったく人間扱いされていない。

ところが、寅さんやその家族は違う。青観を叱りつけたり、子守を頼んだり、変に気を遣ったりもしない。それが嬉しくて、とらやに居ついたのだろう。偉くなり過ぎた人の孤独が伝わってきました。

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龍野の芸者ぼたん(太地喜和子)。大輪の牡丹のような、艶やかで明るい性格。寅さんと相性がピッタリに見える。200万円を悪い社長に騙し取られてしまう。
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話を聞いて、頭に来た寅さんは200万を社長から取り返しに行くという。社長はずる賢いから、訴えられても大丈夫なように対策をしている。寅さんが相手に手を出したら大変なので、義理の弟ひろし(前田吟、中)がなんとかとめようとする。

「兄さんのように純粋で気持ちのまっすぐな人は‥‥」
「分かってるよぉ!早い話が、バカで手が早いって言いてぇんだろ!」
「いやいやいやいや‥‥」

こんなん笑うわー。ずるい。やっぱり怒っている場面はだいたい面白い。

意外だったのが、お金をだましとった社長に天罰が下らなかったことである。そこが甘くなくて良かった。悪の栄えたためしなし、という言葉があるが、現実には悪は栄えている。征伐されるまでは栄えているし、征伐されぬこともある。その残酷な現実からぼたんを救ったのが寅さんや青観の優しさだったというのも、いい話ですね。

寅さんが青観に、ぼたんのために絵を描いてくれと頼むが青観は断る。このとき、青観は「お金に困ってるんだったら多少は用立てる」と言ってくれるのだが、それを寅さんは「たかりじゃないんだから」と断る。実に気高いんですよね。貧乏だけど。こういう断り方というのが、やはり落語っぽいんだなあ。「井戸の茶碗」を思い出しました。青観がぼたんを助けようと思う優しさ、その優しさをお金に変えないぼたんのすがすがしさ。とても良い人情噺を聴いた心持ちになります。

展開は予測しやすいですが、それでも「こうあってほしい」と思うところにピタリと来てくれるのが嬉しい。寅さんはほとんど観たことがなかったのですが、わたしの中に寅さんブームが来そうである。バカな人間は珍しくもないけど、優しくてバカというのはとてもいい。

そういえば、青観を演じた宇野重吉は、この作品の一年前に「金環蝕」でとんでもないごうつくばりの金貸しをやっているんですよね。その落差も面白い。
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