03
2015

映画「ヘッドハンター」

ヘッドハンター
Hodejegerne / 2011年 / ノルウェー、ドイツ / 監督:モルテン・ティルドゥム / サスペンス

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コンプレックスは他人にとってはくだらないものだけど。
【あらすじ】
妻の心を繋ぎとめたくて美術品を盗んでいたら、えらいことになりました。


【感想】
最近、北欧の映画がよく入ってくるようになりましたね。勢いを感じますよ。笑いのセンスも陰気でいいぞ!

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優秀な人材を引き抜くやり手ヘッドハンターのロジャー(アクセル・ヘニー)。高級車に乗り、ブランド品で身を固め、モデルのような妻との豪邸暮らし。誰もがうらやむ環境にいるロジャーだったが、美術品専門の泥棒という裏の顔も持っていた。

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ヘッドハンターとして十分な稼ぎがあるにもかかわらず、妻にせっせと贈り物をするのでお金が足りません。共犯である警備会社の人間にもお金を払うし、思ったより稼げませんわー、と嘆くロジャーだった。

怪盗ものというのは、スポーツ選手のような爽やかな犯人が鮮やかに美術品を盗み出すことが多い。この作品のちょっと変わったところは、犯人であるロジャーの動機がコンプレックスに拠るものだということ。身長が168cmと低い。日本人男性で168cmなら平均より少し低い程度ですが、ノルウェー人の中だとかなり低いのでしょう。

ロジャーは、背の低い自分と妻(右)が一緒にいてくれるのは、金があるからだと考えている。妻からすれば、ロジャーの身長などどうでもいいのだけど、彼はそう考えてないんですね。他人がどう思おうが、自分が気になるのだから仕方がない。妻の不満はロジャーの背ではなく、子供を作ろうとしないことなのだ。

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パーティーで妻から紹介されたクラス(ニコライ・コスター=ワルドー、左)。電子機器ビジネスで成功した実業家で元軍人、イケメンでスポーツもできる、妻もなんだか好意を持っているみたい。おまけに、あいつ背が高いじゃんかあ! 妻とお似合いだし。許さんぞお! と内心穏やかでないロジャーだった。いいですね、この心の狭さ。

表の顔であるヘッドハンターとして、クラスを電子機器ビジネスの会社に紹介する。相手方もクラスを気に入り、クラスの能力にも問題はないがロジャーは推薦状を書こうとしない。それどころか「手を回して、あいつをどこの会社にも採用させないようにする」とまで言う。妻とお似合いだからである。このただごとならぬ器の小ささよ。公私混同しまくりで人としてどうかと思うものの、すべては妻を愛するがゆえ。

それだけ妻を愛しているにもかかわらずロジャーには愛人がいる。愛人の背はロジャーよりもかなり低い。コンプレックスの強さを感じる。愛人と激しいセックスをするが、妻にできないことを愛人にやっているような。愛人は妻の代替品でしかない。結局、妻が一番で、都合が悪くなると簡単に愛人を捨ててしまう。

ロジャーはかなり嫌な人間に見えるけれど、それは妻の愛情欲しさゆえで、そんなに悪い人に見えないのだ。美術品盗むけど。結果、人も殺すけど。やっぱり悪い人かもしれません。情けない顔をすることがあって、その表情がいいから憎めないのかなあ。

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牛乳持ってすっころんで、人を撃ってしまうロジャーさん。なかなかいい慌て顔。

ロジャーは終始イケメン暗殺者から命を狙われることになりますが、かなり危機的状況にもかかわらずあきらめない。それは彼の知能の優秀さもあるが「背の高いイケメンにだけは殺されたくない!」という対抗心もあるのではないか。コンプレックスの力は偉大。

この危機の避け方もすさまじい。ジェームズ・ボンドみたいに軽やかに危機を回避するわけではない。汲み取り式のトイレに全身うんこまみれで隠れたりする。えらい! うんこ男となって生き延びるロジャーさん。尋常ではない執念を感じるよ。

暗殺者が放った犬に襲われるが、その犬をトラクターの先に突き刺して殺す。そして、犬を下ろさずにトラクターの先にぶら下げたままトラクターで逃走する。この犬トラクターがとても不思議なおかしみを醸し出している。ノルウェー風の笑いなのでしょうか。犬トラクター、流行らせたい。

脚本に強引なところが何点かあります(暗殺者が銃を簡単に他人に触らせる、トラックで暗殺しようとする、袋を回収に警察へなど)が、それでも展開の速さと意外なストーリーで引き込まれます。粗いのですが魅力的な作品。主人公のコンプレックスも、いい味になっている。ロジャーより身長がなくて、給料が安くて、家もないし、という人間はたくさんいる。けれど、そんな持っていない人々のコンプレックスよりも、ほぼすべて持っているロジャーのコンプレックスのほうが大きいということもあるのだろう。

コンプレックスを克服するというのは本当に難しいことなのだろう。年月が経てば消えたり、代替的に解消される(学歴はないが商売で成功とか)とは思う。でも消えないでくすぶり続ける感情もあるのかもしれない。それは周囲からどれだけ賞賛されても仕方ないのだろう。本人が納得するかどうかの話なのだから。財産、名誉もあるスポーツ選手が、人生のあがりとして政治家になろうとするのを見るとき、そう感じることがある。

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