08
2015

映画「ぐるりのこと。」

ぐるりのこと。
2008年 / 日本 / 監督:橋口亮輔 / ドラマ、コメディ

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他人同士が夫婦になる瞬間。
【あらすじ】
几帳面でなにごともきっちりしないといけない妻、いいかげんで浮気者の夫。たまに衝突することもあるけれど楽しく暮らしていた二人。流産により、翔子は心のバランスを崩し始める。



【感想】
アイディアを思いついて簡単にポンと撮れてしまう一本もあると思います。逆に、一人の人間が一生に一本だけ撮れるような作品もあると思う。この作品は間違いなく後者で、監督の鬱病の経験に基づいて撮られている。

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出版社に勤務する翔子(木村多江)と、靴の修理屋で働くカナオ(リリー・フランキー)の夫婦。カナオの性格が本当にリリーさん、そのまんまに見える。女好きで優しくて穏やかで、大事なことは口に出さない。そのせいで翔子も、カナオが本当は何を考えているかわかりかねているところがある。翔子はしっかり者で、何事もきっちりしないと気が済まない。その真面目な性格もあって、流産した後に心を病んでいく。

夫婦の性格が緻密に描かれているのがいいですね。カナオはただのスケベでいいかげんな男のように見えるが、それだけではない。日本画家になりたい夢をあきらめきれない。でも、生活のために法廷画家の仕事を引き受ける。ニュースで見かける法廷内の絵は法廷画家が描いている。法廷を撮影することは法律で禁じられているため、裁判の様子を伝えるために法廷画家が必要になる。

絵の仕上げはニュースに間に合わせるのでスピードが命で、作品は消耗品のように扱われる。テレビ局のスタッフは、完成度はそこそこでいいから、さっさと絵を仕上げてほしい。虐待された児童を描くなど、本当に必要なのかと言いたい仕事もあるが、お金をもらってるから妥協しなくてはいけない。それでも「ここだけは譲れない」というささやかなこだわりがある。そのこだわりこそが、その人をその人たらしめているものなのではないかと思う。スタッフと法廷画家の攻防も愉快でいいですね。同僚の法廷画家である寺田農さんや斎藤洋介さんもいい味を出しています。

カナオが定食屋で食事をしているとき、定食屋のテレビに宇宙飛行士の向井千秋さんが映る。向井さんは宇宙飛行士への夢を語っている。夢をあきらめ妥協したカナオと、夢をかなえた向井さんという残酷な対比が良かった。誰もが大きな夢を叶えられるわけでも、好きな職業で食べていけるわけでもない。目の前の仕事をして生きていくだけで立派ということはわかってはいるけども。カナオは翔子の兄(寺島進)から不動産屋の仕事を勧められてもやんわりと断る。日本画家になれなくても、絵には携わっていきたい。

カナオは自分が抱えるそういった鬱屈について翔子に何も言わないんですよね。子供が流産したことについても言わない。妊娠したときも、喜びを表には出さなかったのだろう。翔子は、カナオが密かに描いていた赤ん坊の絵を見つけて、カナオが子供を楽しみにしていたことを知る。カナオは大事なことを言わない人で、翔子はなぜカナオが気持ちを言わないのか理解できない。ずっと隣にいて理解しあえているようでも、わからないことってあるのだろう。

カナオの心情はなんとなく理解できる気がする。照れ臭かったり、面倒だったり、自分の気持ちを正確に言葉にできなくて、口に出すと違ったものになってしまったり。そういうものが混ざり合って、言葉にしない人になっていったのではないか。

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翔子はついにある晩、爆発してしまい、泣き崩れることになる。その翔子の背中をさすってやって慰めるカナオ。この場面が本当に良かったですね。木村多江さんが役に入り込むあまり本当に鬱になりかけて、それでもリリーさんと監督が手を離さないでいてくれたというようなことを仰ってますが、手を離さないでいるという、そのことが難しいんだろうなあ。

自分の周りの誰かが心のバランスを崩して、それが親子ならば、やっぱり離れるのは難しいように思う。でも、子供のいない夫婦だとしたらどうなんだろう。離れて他人同士に戻るという選択をしても不思議ではない。翔子が爆発したとき、カナオが手を離さなかったあの瞬間、はじめて二人は夫婦になったように見えた。

かなり重い作品ですが、ちょっと抜けてて笑える部分もあっていい。題名の「ぐるりのこと。」は公式サイトには「自分の身の周りのこと。または、自分をとりまく様々な環境のこと。」と書かれている。夫婦の周りにはさまざまな人がいる。翔子の兄のように、いい人、悪い人と簡単に割り切れなくて、それでも翔子を思ってくれている人も。

人と関わることはときに面倒だけど、そのぐるりのことと繋がりを切ってはならない。繋がり続けていかなくてはいけない。そこにこそ希望がある。

わかっていてもしんどいんですよねー。ひきこもって映画でも観たいというダメな人間がここにおります。

たくさんの人に観てほしい映画です。



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4 Comments

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2015/04/23 (Thu) 23:42 | EDIT | REPLY |   

しゅん  

Re: No title

> 樋口亮輔さんでなく橋口亮輔さんですよー

ありがとうございます。修正しました。

樋口って誰だろうと思ったら学生時代のバイト先の友人でした。
自宅アパートの前に救急車が来て、何があったんだろうと見に行ったら転んで、
ついでにその救急車に運ばれていったという人でした。
アイツに監督ができるわけない。

2015/04/24 (Fri) 00:42 | EDIT | REPLY |   

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No title

樋口亮輔で画像検索したら濃ゆいアンちゃんが出てきて、こんな監督なのかとドキドキしました杞憂でしたー

2015/04/26 (Sun) 00:30 | EDIT | REPLY |   

しゅん  

No title

ソフトモヒカンの濃ゆい人が出てきますねー。

でも、橋口監督も、坊主頭の写真のときはけっこう怖そうですけども。

2015/04/26 (Sun) 07:32 | EDIT | REPLY |   

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