06
2015

ブルージャスミン

Blue Jasmine / 2013年 / アメリカ / 監督:ウディ・アレン / ドラマ
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没落富裕層の憂鬱。
【あらすじ】
夫が詐欺で逮捕されて、お金がなくなりました。


【感想】
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裕福な実業家ハル(アレック・ボールドウィン)との結婚で、豪勢な暮らしをしていたジャスミン(ケイト・ブランシェット)。ところが、夫ハルが詐欺で逮捕されたことにより、全財産を失って貧困層に転落する。一文無しとなり、妹ジンジャー(サリー・ホーキンス)の元へ身を寄せたジャスミンだったが、豊かだった頃の暮らしを忘れられない。移動の飛行機はファーストクラスをつい頼んでしまう。ついって。オイ。

この映画はねえ、観ていてちょっと堪えましたね。高慢で、自己評価が高すぎるジャスミンに対して「早く転落しないかな~ワクワク」と期待していたものの、いざ転落しだすともうこれが痛々しい。精神も病んでしまう。そ、そこまでジャスミンをいじめなくても、と思ってしまった。ウディ・アレンの性格の悪さを感じる。

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ジャスミンのような人は実際にいて、没落せず、幸せな生涯を送る人も多いだろう。夫の逮捕がなければ、ジャスミンもただのセレブとして暮らしていけたのかもしれない。ジャスミンは、突如富裕層から転落したために環境の変化についていけない。浪費癖も抜けないし、貧困層の価値観にもついていけない。夫を失い、ただの一人の女として世間に放り出されたとき、なんの能力もない自分に気づいて苦しむ。彼女が自慢していた社交界での振舞い、ブランドの知識、実務とかけはなれた教養などは、貧困層の生活ではなんの役にも立たない。パソコン一つマスターできず、歯医者の受付という自分には相応しくない(本人が思い込んでいるだけだが)職業に甘んじなければならない屈辱。

妹の恋人と、その友人の粗野な振舞いも許しがたい。服装も、話題も、言葉遣いも、礼儀作法も、趣味も、職業も、なにからなにまで受け入れがたくてストレスの種になっている。怒りのあまり発狂寸前、失神三秒前である。妹の恋人や友人が騒いでいるのを、自分の感情を爆発させないようにたしなめるジャスミンの表情のすごさ。青筋立てつつ、でも表面はにこやかに、だがその心中から滲み出るいらだちを隠しきれずにひきつる口元。ケイト・ブランシェットの演技がすばらしいですね。

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ジャスミンは、妹の男選びや職業に苦言を呈する。ジャスミンにとって、年収、職業、学歴、ブランドは至上のものである。スーパーのレジ打ちで暮らしを立てて、無教養で乱暴な男を恋人にする妹の考えを理解できない。彼女にとって我慢ならないのは、妹が貧困層の暮らしを恥とも思わず、適応してそれなりに楽しんでいるからかもしれない。ジャスミンはそんな底辺で満足せず「上」を目指したいのだ。ジャスミンをプライドが高いだけのバカと笑える人は、この映画をコメディとして観ることができるだろう。笑えても、心からというより苦い笑いになってしまう。

わたしにはジャスミンの気持ちがわかるような気がする。自分の嫌なところを肥大させていけば、ジャスミンのような性格になるかもしれない。高慢で自分の意見を絶対のものとして他人に押し付ける。たいしたことではないと思いつつ、年収、職業、学歴、ブランドにすがりつこうとする。ジャスミンほど極端ではなくても誰しもこういう部分は持ってそうだし、自己投影もたやすかった。

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じゃあ、ジャスミンが同情すべき憐れな人間かといえばそうでもないのだけど。夫がやっていた詐欺を知りつつ、見て見ぬフリをしている。彼女は、夫がお金を稼いでくれば実のところ手段はどうでもよい。その程度の倫理観しか持ってない。だが、ここでもジャスミンを笑えない。夫がバリバリ稼いで贅沢をさせてくれて、優しくて、チャリティ活動にも熱心、世間に自慢できる人間だとしたら。夫が違法に稼いでいると勘付いても、厳しく追及できるだろうか。本当に自分にその強さがあるのだろうかと自問してしまう。見て見ぬフリをしないとは言い切れない。

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じゃあ、富裕層のハル・ジャスミン夫婦を否定し、貧困層にいる妹夫婦(のちに離婚)を肯定しているかといえばそういうことでもない。彼らは、宝くじで当てた賞金をハルに託して、楽して儲けようとする。貧困層に暮らす人間が清貧ですばらしいというのではなく、金を持てば富裕層と同じ行動をとる。彼らが富裕層を憎むのは、自分がなりたくてなれないものに対する妬みからの憎しみという部分も感じさせるのだ。

ウディ・アレンの人間観察の鋭さなのだろうけど、うーん、意地悪だなあと思いましたよ。こういうことに気づかずに生きていったほうが楽だもの。だが、映画に限らず作品は、どこか歪みを持った人間のほうが、いい作品を作れるように思えるのだ。聖人君子にこの映画は撮れないし、そんな映画は退屈な気がする。鑑賞後、やり場のない感情を持て余しますが、でもそんな映画こそいい映画なのでしょう。

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