09
2016

小早川家の秋

1961年 / 日本 / 監督:小津安二郎 / ドラマ
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変わり行く時代。だいたいのことはなんとかなる。
【あらすじ】
造り酒屋、小早川家の人々。



【感想】
題名の「小早川」は「こばやかわ」ではなく「こはやがわ」と読む。映画の舞台となった関西方面では「こはやがわ」姓が多いのかな。

この映画は他の小津映画と同様、市井に生きる人々を通して人生の悲しみやおかしみを淡々と描写している。前年(1960年)に公開された「秋日和」と似通った点も多いですね。小早川家の人々が、未亡人となった秋子(原節子)の新しい夫を探すところから映画が始まる。「秋日和」でも、原節子が未亡人となり、周囲の人間が新しい夫を探そうとする。とても似通った状況のものを一年ほどの期間に再び撮ろうとした小津監督の意図はなんだったのだろう。手抜きだったりして。

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周囲の人々は秋子に対し「老後はどうするのか」「まだ若いのだから夫がいないと不幸だ」とうるさい。ここらへん良くも悪くも昭和っぽいですね。面倒見が良いというか、余計なお世話というか。秋子に相談もせず縁談の相手を探してくる。なんて人たちだ。秋子は、困りながら柔らかく「ええ、まあ‥‥」などとお茶を濁す。品がいいなあ。

造り酒屋の当主である小早川万兵衛(中村鴈治郎)。ひょこひょこ歩く姿が滑稽。気が強くてわがままで女好きなんだけど、どこか憎めないんですよねえ。孫を利用して愛人のところに遊びに行きます。ひどいおじいちゃんだな、オイ。

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中村鴈治郎が出ると、だいたい愛人がいるという印象ですが今回もやっぱりいる。浪花千栄子が演じている。浪花千栄子は「昔はよろしゅうおしたな」と、昔を懐かしんで万兵衛に語りかける。つい、口にしてしまいがちな言葉。戦争や飢餓など特別な状況を除けば、いつの時代の人も、きっとこれを言い続けるんだろうなあ。

で、万兵衛の次女である紀子(司葉子)。原節子が演じる長男の嫁秋子とは、義理の姉妹になる。「秋日和」では親子でしたが、やはり親子のほうがしっくりきますね。もう、本当に「秋日和」そっくり。

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同僚の送別会兼コンパみたいな場面がある。

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ここでみんなで歌を歌う。歌かー。爽やかさを通り越して違和感を感じる。まだカラオケは発明されてない。店主やバンドの演奏に合わせて歌う「歌声喫茶」の時代なんですよね。だから、人が集まれば自然に歌うのかな。

テーブルの上の調味料や壁に掛かった絵など、赤が効果的に使われているのも、相変わらずですね。

もう何度も「似ている」と書いたが、なぜ1960年に公開した「秋日和」のすぐ後に「小早川家の秋」を撮ったのだろう。「秋日和」と違うところは、鴈治郎がよく暴れているのと、最後に出てくる笠智衆である。

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描きたかったのは、変わりゆく時代や価値観ではないか。小早川家は当主の万兵衛が亡くなり、造り酒屋は大きな企業に吸収合併されてしまいそうである。次女の紀子は今までの時代のように周囲が勧める人間ではなく、自分が選んだ男と結婚するつもりである。未亡人となった秋子は、新しい夫を探さずに一人で生きていく決意を固めたようだった。万兵衛と愛人の娘は、外国人を相手に好き勝手に遊び歩いている。

これらはすべて変わりゆく時代や価値観を表していて、浪花千栄子が口にする「昔はよろしゅうおしたな」に繋がるように思える。たしかに時代や価値観は遷り変わっていく。良いものが失われていくように見えるかもしれない。

笠智衆は火葬場の煙突から立ち上る煙を見上げてつぶやく。

「人間は死んでも、後から後からせんぐりせんぐり生まれてくる、ようできてるもんだ」

人が死に、また新しい命が生まれてくる。これまでもそうだったし、これからもそうだろう。その時代のことは、その時代の人がうまくやっていく。人が入れ替わり、時代や価値観が遷り変わろうと何も心配することはないんだ。きっとうまくいく。小津監督から、そう穏やかに語り掛けられているような気がした。

「秋日和」には娘である司葉子と、母である原節子の価値観の違いは表現されていた。だが、この最後の場面にある穏やかで次世代に希望を託したような描写はない。その点で「小早川家の秋」は「秋日和」よりも一段優れた作品になっているように思う。

そんで、わたしがもっとも好きなのは万兵衛の妹である杉村春子だった。万兵衛は亡くなる前に一度倒れており、その際に親戚が集まったが本人は意外と元気で飄々としていた。だが、しばらくすると今度はあっけなく万兵衛は亡くなってしまう。親戚は再び小早川の家に集まらねばならなかった。その場での杉村春子の一言。

「こないだ(親戚が)集まったときに死んでしまったら良かったのになあ」と言い放つ。いや、そりゃ、みんな遠くから来るのは大変だけどさあ! 正直な人である。口は悪いものの、その後に涙にくれるのだ。いいおばちゃんだなあ! 本当に口は悪いが。
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