09
2016

きいろいゾウ

2013年 / 日本 / 監督:廣木隆一 / ドラマ
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繊細すぎる感受性の恐怖。
【あらすじ】
ちょっと変わり者の妻、そんな妻を温かく包む夫、ほのぼのした話かと思いきや。



【感想】
宮崎あおいと向井理の夫婦がのんびり田舎暮らしをする映画、鑑賞前はそんなイメージだったのですが、いやもう、これはえらいものを引いてしまった。たしかにのんびり田舎暮らしはあっているんだけども。普通の癒し系映画とは違う。繊細な人たちがたくさん出てくる。その繊細さを受け入れられるとお気に入りの映画になりそうですね。

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売れない小説家の無辜歩(むこ・あゆむ、通称ムコ)を向井理、動植物や虫と会話ができる妻利愛子(つまり・あいこ、通称ツマ)を宮崎あおいが演じる。不思議ちゃんがたくさん出るよ。冒頭、ツマが庭に水を撒いている。庭の草木や、飼育しているヤギと会話をする。ツマは本当に動植物の言葉がわかるのか、それとも、幼児期によくある空想上の友達イマジナリーフレンドのようなものなのか、どちらかはわからない。ただ、ムコはそんなツマを気味悪がることもなく優しく受け入れている。包容力ですなー。

この二人の出会いが変わっている。ムコがたまたま入った喫茶店でツマは働いていた。ツマは「満月が怖い」と言い、ムコは「欠けていってるから大丈夫ですよ」とツマを安心させようとする。「なんだこの会話」と思ったが、二人は意気投合したらしく、すぐに結婚しようとする。え、そこからいきなり結婚にいくのか? もう立ち上がりから置いてけぼり感がします。わ、わたしを置いていかないでおくれ。

二人はツマの両親に結婚を許してもらうための挨拶に行くが、売れない小説家ということで却下される。なによりいきなりだし。劇中で説明はないものの、二人は駆け落ち同然で一緒になるのかな。お互いの呼び名「ムコ」「ツマ」も少し不自然で「ツマ」に対しては本来「オット」だと思うのに「ムコ」と呼ばれている。これは、挨拶に行ったとき「娘さんをください」といって拒絶されている。娘をもらえなかったので、自分が彼女の側に入るということで「ムコ」になったのではないだろうか。一方、ムコの側は両親が出てこないので、ツマは勝手に妻になってOKということかな。

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ちょっと変わり者っぽい二人ですが、貧しいながらも楽しい我が家ということで田舎暮らしを楽しんでいる。そう、あの手紙が来るまでは‥‥。ムコ宛の差出人不明の手紙をツマが受け取り、ムコに渡す。ムコは手紙のことをツマに説明しないし、ツマも訊かない。訊かないがものすごく気にしている。これは夫婦間の微妙なところなのだろうか。

ツマはムコを直接は責めずに、蛇口の栓をひねって大量の水を出すことで自分の気持ちを訴える。蛇口を開けようとするツマと閉めようとするムコ、やがてエスカレートしてコップでムコの手を殴りだすツマ。コップが割れ、ムコの手が切れる。おおお、なにこれー、ここだけホラー映画である。訊けば、夫の過去の女性関係に触れなければならず、今の生活が終わってしまうかもしれない。それが怖くて訊けないのだろうか。ツマはムコの背中にある鳥の刺青についても訊かない。本当に君らは、訊かないし言わない夫婦だな。ひょっとして君ら、かなり面倒くさい夫婦なのでは‥‥。

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この映画で奇妙に思ったのはベッドシーンの生々しさで、特に宮崎あおいについてはセックスのイメージがないから猶更だった。行為そのものは激しくなくて、ゆったりとしていて、ごく自然に見えたからかえって生々しいのだろうか。これがなぜか二回もある。なんでこの場面を入れたのかと思えば、ごく普通に親密なセックスをする二人なのに、あまりにも当たり前のことが訊けない夫婦間の奇妙さを表したのか。でも、相手を大事に思っているから、傷つけたくなくて訊けないのかなあ。そのわりにコップでガンガン殴りますけど。

手紙のことで二人はギクシャクしだし、ツマはムコの日記を盗み見る。ムコは日記を通してしかツマへの本音を伝えられなくなってくる。ツマは、盗み見た日記に押し花のように乾燥させた葉っぱを入れるんですね。

どういうことなんだ、これは。盗み見ているはずなのに悪いと思ってない。それどころか「読んでますよ」と葉っぱを挟んでいる。発想がサイコパスのそれである。怖い。一方、ムコはガサガサの葉っぱが挟まっているにもかかわらず、ツマに日記を読まれていることにずっと気づかなかったという。日記がガサガサするからわかるでしょうが! しっかりして!

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登場人物全員が繊細なんですよね。夫婦のもとに遊びに来る近所の子供も変わっている。国語の時間に朗読した際「姉さん」を「あねさん」と読んでしまい、恥をかいたことから登校拒否になる。「これから先の人生も恥をかきつづけるし、それを考えると恐ろしいんです」みたいなことを言っているが、わたしはおまえが恐ろしいよ。思い詰め方がなかなかのもの。この子は、ムコが介護施設の催しで、下手な歌をがんばって歌っている姿をみて勝手に立ち直るのだった。もう、行き過ぎた感受性は狂人と変わらない。

ツマは悩み事を庭のソテツの木に相談していたが、やがてその声は聞こえなくなる。犬の声も、蜘蛛の声も聞こえない。「魔女の宅急便」で、主人公キキは黒猫のジジの声が聞こえなくなる。あれは主人公の成長を表していると思うのだけど、ツマも同じだろうか。閉じている者は繊細である。声なき声に耳を澄ませば、木や犬はしゃべってくれる。だが、それは木や犬しか心を開ける相手がいないのかもしれない。木や犬は最初から語らず、木や犬が語っていると思い込んでいる自分がいるだけかもしれない。

過去に片をつけるため、東京に行ったムコはツマの元に戻ってきた。二人はもうお互いについて語り、訊ける関係になっている。ムコは日記を書かなくてよくなり、ツマは自然の声が聞こえなくなった。過去を乗り越え成長し、本当の夫婦になった。そんな話なのかなあ。よくわからなかったんですよ。いろんな人の感想が聞いてみたくなる映画でした。宮崎あおいさんは、こんな変わった役柄を演じても自然に見えるのはすごいですね。

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