26
2016

人生はビギナーズ

Beginners / 2010年 / アメリカ / 監督:マイク・ミルズ / ドラマ
クリップボード10j
大事な人に言えない秘密が傷となる。
【あらすじ】
父親から、ゲイだと告白された。



【感想】
父を亡くした喪失感に苦しむ男が静かに立ち直っていく様子を描いた作品。主人公の内面の描き方がとても丁寧ですね。人が傷つくのは、直接ひどいことを言われたときだけではない。悪意ではなく善意が人を傷つけることもある。心の奥底にあるものをひた隠し、その秘密が自分のためだったと知ったとき、その傷は猶更深くなる。

クリップボード021

妻の死後、癌にかかった父ハル(クリストファー・プラマー、左)。ハルは息子に同性愛者であるという告白をする。癌と同性愛というダブルパンチにちょっとためらいつつも、静かに父を受け入れる息子オリヴァー(ユアン・マクレガー、右)。

オリヴァーは父親が同性愛者であることを聞いても特に反発はしない。オリヴァーは38歳で、自分とは異なる考え方を受け入れる心の余裕もある。父を否定することもしない。父の恋人(若い男性)や友人たちともごく自然に付き合っていく。

クリップボード066

でも彼の傷になったのは両親の関係なんですよね。温厚な父と変わり者の母。父は出掛ける際、母に義務的なキスをしていたが、それは夫婦という像をオリヴァーに見せることが目的だったのかもしれない。妻は夫の愛情を得られないことに不満があった。夫は意を決して妻に自分が同性愛者であることを告白したが、妻からは「大丈夫、わたしが治してあげる」と言われてしまう。同性愛は病気ではないし、もう出発地点から夫婦はずれていた。

妻が同性愛に否定的なほうがまだ救いはあったのかもしれない。別れるという選択もできる。妻は一応の理解を示してくれたが、ハルにとっては同性愛を病気とみなされたことのほうがダメージが大きかったに違いない。残酷な善意に見える。どちらが悪いということもない。むしろ歩みよってさえいる。だが、お互いの目は違う方向を見つめているだけだ。

ハルは暴力的というわけでも、家に給料を入れないというわけでもない。世間的にはきっと良い父親なのだ。妻も変わり者だが悪い人間ではない。夫は同性愛者であることを隠し、妻はユダヤ人であることを隠していた。隠していることは周りとうまくやっていくためだった。だが、それが家族の信頼関係だったり、自分の心だったり、いくつかの大切なものを静かに確実に壊していったように思えるのだ。

オリヴァーが深い喪失感を抱えた原因はもう一つあって、それは父が75歳になるまで同性愛者であることを告白しなかったことではないか。ずっとオリヴァーのために父は堪えてきたのだ。そんなことオリヴァーは望んでなかったんですよね。だから、父に対してすまないとさえ感じている。直接そんな描写はないものの、このすまなさとか負い目みたいなものが強く伝わってくる。

家族はお互いを尊重し、お互いを傷つけず傷つかぬようにしていた。父は75歳にしてついに心を開いたが、オリヴァーは父を受け入れたものの、自分からは父に対してアクションを返さない。「今まで苦しかったんだね」とか「ありがとう」とか、そういうことは言わない。心を開けぬまま父が死んだこと、それが彼を苦しめている。

クリップボード04

オリヴァーは恋愛に積極的ではない。新しくできた恋人アナ(メラニー・ロラン、右)との関係もどこか及び腰だ。結婚を考えても、両親のことが頭をよぎる。自分も両親と同じような形だけの夫婦になることを恐れている。彼らがお互いと息子を思いやるあまり、オリヴァーも知らぬ間に傷ついてしまっていたのだ。オリヴァーの繊細さは脆弱すぎるともいえるけど、それでも共感できるところがある。この映画は共感できないほうがよくて、この映画を「わかる!」と強く思う人は、ちょっと面倒な人生を送ってそうですよ。

ああ! もう! 誰か悪い奴をぶん殴って終わり! みたいな映画が観たい!

クリップボード120

やや重たいものの、いい映画でした。メラニー・ロランがきれい。そんで犬かわいい。犬かわいい。犬かわいい。三度言いたくなるほどのかわいさよ。



2016年2月23日~2016年3月22日までGYAO!で無料配信しています。
関連記事
スポンサーサイト

0 Comments

Leave a comment