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2016

ブリングリング

THE BLING RING / 2013年 / アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本 / 監督:ソフィア・コッポラ / 実際の事件に基づいた映画
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全員、なるべく早く死んでください。
【あらすじ】
セレブの家から物を盗みまくるぞ~。SNSにアップするぞ~。友達にも自慢するぞ~。捕まりました。



【感想】
2008年から2009年にかけて、18歳前後の少年少女がハリウッドセレブの豪邸を襲った窃盗事件を基に作られた映画。被害総額は300万ドル相当に上る。犯行グループにつけられたニックネーム「ブリングリング」は、キラキラ派手な窃盗団という意味。

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面白かったのだけど、やや評判が悪い作品という。後味が悪く不愉快だからかなあ。出てくる人間がすがすがしいほどパッパラパーである。え、世の中こんなに舐められる? ってぐらい舐めてくるのですよ。キーッ、くやしい! わたしがくやしがっても仕方ないですけど。しかしながら、この題材を取り上げたソフィア・コッポラはすばらしいですね。

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窃盗をした少年少女たちはお金に困っているわけではなく、彼ら自身も富裕層である。富裕層である彼らが、さらに裕福なセレブの生活に憧れ、パリス・ヒルトンやリンジー・ローハンの家に忍び込んで窃盗を繰り返す。覆面もかぶらず、手袋もつけず、現場にあった酒を飲み、ダンスフロアで音楽をかけて踊る。急いで逃げなくていいのかな。この危機感のなさに唖然とした。もっと真面目にやって!

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窃盗した物を身に着けてSNSにアップしたり、盗みに入った話をなんの警戒感もなく友人に話す。この無防備さはなんなのだろう。単なるバカでは片付けられないものがあるように思うのだ。

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彼らはセレブに憧れているのにセレブから盗む。それはセレブと同じものを身に着けることで、彼ら自身がセレブ気分を味わえるからということで理解できる。だが、捕まったあとに主犯のレベッカ(ケイティ・チャン)が刑事に訊ねたのは「リンジー、あたしのこと何て言ってた?」である。そりゃ、バカヤローしかないと思うけど。

リンジー・ローハンにとっては窃盗犯でしかない自分を、友達か何かのように思っているように見える。

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窃盗犯の一人であるニッキー(エマ・ワトソン)は、マスコミの前で事件について語っている。この事件は自分がより成長するための試練であり、この事件を通してよりスピリチュアルな人間になりたい。ボランティアもやりたいし、やがては国の指導者になりたい、みたいなことを真面目に語っているのだ。おまえ、頭おかしいんかいという。

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いずれは有名になり、セレブとしてテレビでもてはやされるわたしの若気の至り、長い自伝の序章、そんなふうに事件を捉えているように見える。この「特別なわたし」みたいな感覚が不思議だった。あなたは世界でただ一人、特別な人間、そんな考え方はアメリカだけでなく日本でも同じで、それが加速しているように見える。本当は誰だって交換可能である。

アメリカはけっしてオンリーワンではない。映画「マネーボール」では野球選手が野菜の叩き売りのようにトレードされる。さっきまで一緒に練習をしていた選手が、試合になったら敵チームで出てくる。「マージン・コール」では、証券会社に勤めるエリートが出社後30分で首になり、巨大ビルの下で私物の入った段ボールを抱えて立ち尽くす。野球選手や証券マンという富裕層ですら「誰とでも交換可能なわたし」なのだ。誰だって部品のように扱われることは堪えがたい。この現実の残酷さへの反動として「特別なわたし」「オンリーワン」という考え方をありがたがるのではないか。

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さらにアメリカ社会の変化もある。ブリングリングについて書かれた本の中で、監督のソフィア・コッポラは「リアリティ番組」「ツイッター」「TMZ」の3つが、アメリカの変化に大きく関わったのではないかと推測している。「リアリティ番組」とは、一般人(だけとは限らないが)が参加するテラスハウスのような番組、TMZとはアメリカのゴシップを扱った番組。これらによって、セレブがより身近になり、自分も同じ立場にあると錯覚したのかもしれない。

ブリングリングのメンバーは盗みを行うが富そのものは欲していない。裕福な家に生まれた彼らにとって、富は生まれたときからあるのだから。セレブが持っている服や靴だからこそ価値がある。彼らに良心の呵責が感じられないのも、彼ら自身が富そのものに価値を置いてないから、盗ってもそれほど悪いとは思ってないのではないか。そもそも被害者は資産が何十億、何百億の人間なのだ。だとすると、まったく悪びれてない様子もうなづける。彼らの目的はお金ではなく、セレブのようになりたいだけなのだ。有名になること、それ自体に価値があると考えている。俳優がいい演技をしたとか、野球選手がワールドシリーズで優勝したとか、優れた実績があったから結果として有名になったのとは違い、ただ有名になることが目的なのだ。価値があったから有名になったというように考えず、有名だから価値があると考える。

実績など必要なく、ただメディアに出続ければいい。複雑でわかりにくいものなどいらなくて、刺激的で挑発的な発言をすればするほど注目を浴びる。派手で目立つものをTMZが追いかけまわし、ツイッターでフォロワーが増える。彼らが事件を起こした後、マークのもとには、SNSのフレンド申請が800件来たという。

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ニッキーはインタビューで、自分についてのサイトを立ち上げたから見に来てね! と宣伝している。君ら、反省ゼロだな。

でも、実際にそれが商売に結びついているのだよね。有名になりさえすれば犯罪すらキャリアのうちである。なんでもかんでもお金に結びついていくようで怖い。彼らは盗みに入る下準備として、有名人の住所を「セレブリティ アドレス エアリアル」というサイトで調べている。年会費99.99ドルを払えば、有名人の住所とその外観の写真を取得し放題という。訴えられないのか、それは。

アメリカのなんでも金に換えていく姿勢、これも事件の原因の一端になっているように思えた。日本もここまでは来てないにしろ、似たようなものかなあ。

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映画の舞台となったパリス・ヒルトンの屋敷ですが、実際の撮影でも使われているそうです。ソフィア・コッポラの映画は初めてでしたが、とても興味深かったです。ブリングリングについて批判的に描いてないのがすばらしいですね。取材対象に対する敬意を忘れていない。わたしは「全員早く捕まれ」と思いながら観てましたよ。変わった映画を観たい人にはお薦めです。

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