08
2016

その土曜日、7時58分

BEFORE THE DEVIL KNOWS YOU'RE DEAD / 2007年 / アメリカ / 監督:シドニー・ルメット / ドラマ、サスペンス
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因果は巡るよ、どこまでも。
【あらすじ】
お金がないので弟に強盗させよう。



【感想】
監督は「12人の怒れる男」「セルピコ」などのシドニー・ルメット。この作品を撮ったときは84歳でしょうか。いや、すごいですね。84歳の映画とはとても思えん。冒頭から、グッと引き込まれます。というのも、フィリップ・シーモア・ホフマンが腹の脂肪をぶるぶる震わせる激しいセックスから始まる。ど、どんな始まり方だ。

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これ、ちょっと笑わそうとしているのかもしれない。この映画はちょこちょことこういった面白場面があるんですよね。84歳ギャグかなあ。大変よろしいですよ。物語は、会計士のアンディ(フィリップ・シーモア・ホフマン、左)と、その弟ハンク(イーサン・ホーク、右)を軸に展開する。兄が弟に強盗をさせ、その失敗からすべてが崩壊していく。

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人物の描き方がよくて、細かい説明はなくても言動の端々から、登場人物が歩んできた人生を推し量れる。兄のアンディは叩き上げの会計士。裕福な暮らしをおくりながら、それ以上に浪費するためにお金が足りない。麻薬のために会社の金を横領している。妻とはうまくいってない。

弟ハンクは妻と離婚。養育費も払えずにいるので、元妻と娘からダメ人間呼ばわりされる。つらいわー。

ハンクを演じたイーサン・ホークですが、切れ者や乱暴者を演じているのをよく見かけます。この映画では見事なまでに気弱なダメ人間を演じている。困り顔がすばらしいですよ。演じる役の幅が広いですね。

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アンディから強盗を持ちかけられる場面、二人の位置がそのまま力関係を表している。アンディは、笑顔で相手を丸め込んでしまうずるさと魅力がある。この役はフィリップ・シーモア・ホフマンにぴったりですね。

アンディの計画は綿密なようにみえて杜撰。自分たちの両親が経営する宝石店を襲おうというものだった。警備がおばちゃん一人で手薄ということや、宝石に保険が掛けてあるから両親も困らないとハンクを説得する。一度は強盗に反対するハンクですが、簡単に丸め込まれてしまう。ちょろいわー、この人、ほんとちょろいわー。ちょろすぎて悲しい。

強盗は手違いから失敗。偶然、店番をしていた母親が銃で撃たれて植物状態となってしまう。しかしですね、この弟に強盗をさせようという兄がどうかしてますよ。この人にだけは頼んじゃダメという人に、なぜ頼みますか。

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母の葬儀での父(アルバート・フィニー、右)とアンディの会話が良かった。アンディは家族関係に不満があった。出来は悪いのだけど顔の良い弟ハンクが父からかわいがられ、自分はずっと家族に入れなかったという悔しさを吐露する。自分は実の子ではないのではないかと、父を疑いもする。

アンディの悪を発現させてしまったのは、元をたどっていくと父との関係にあるように見える。根底には父親からの愛情不足、自分の出自への不安、これはねえ、父親との間にしこりを抱える人は納得するところがあると思います。わたしですけど。

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父親に詫びられて、取り乱してしまうアンディ。父親が自分に対してずっとひどい父親でいてくれたら、両親の店を強盗したこと、結果として母が死んだことについて、まだ自分だけが悪人ではないと思える。良心の呵責も軽くなる。それが今更詫びて、理解のある父親面をしようだなんてひどいじゃないかという。俺はあんたのことを憎み続けてきたのに、なんで今更‥‥。ああ、かわいそうなアンディ。本当は父親のことを好きだったのにね。

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アンディの妻(マリサ・トメイ)も面白い。彼女は、アンディが何を考えているかわからずに苦しんでいる。強盗だけじゃなくて会社の横領にしろ、麻薬にしろ、親子関係にしろ、アンディは妻にいろんなことを隠してきたのだろう。妻は妻でずっと孤独感を抱えて結婚生活をおくってきた。それが弟ハンクとの不倫に繋がっている。というか、君らグチャグチャだなオイ。

で、ついに「家を出ていく」とアンディに告げる妻なのだけど、そのときに不倫のことも洗いざらい話してしまう。これ、無茶苦茶なようだけど、妻はアンディを愛していたのだろう。ここで不倫のことを言うと、離婚の際に慰謝料を請求されることも考えられる。それでもアンディと本音で話し合いたかったのだろう。だが、アンディは不倫のことを怒らないし追及もしない。そういう態度が妻には余計頭に来るのだろう。

しかし、アンディはアンディで妻を愛していた。うまくいかない夫婦関係も、強盗でお金を手に入れれば、妻とリオ・デ・ジャネイロでまたやり直せると思っていたのだ。無茶な計画ですけども。

結局、妻は不倫のことや夫への文句をバーッと並べ立て、部屋から出て行こうとする。そのとき、荷物が重すぎることに気づいたのだろう。散々文句を言ったあと「ちょっとタクシー代くれない?」と言ったのには笑ってしまった。あまりに間抜けすぎるけど、現実にもあるかもしれない。アンディがタクシー代をふつうに渡すところもおかしかった。

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すべての元凶はここにあったのではないか、そう思わせる父親の存在。怖いお顔ですねー。この人、過去にかなり悪いことをやっていたのでは? と思える部分がある。八つ当たりで警察の車に激突する気の短さ、盗品を売りさばく故買屋を知っているところなど。そして、ためらいなく、ある人物を殺そうとするところに普通ではないものを感じた。悪はそれだけでは完結せず、また他の悪を呼び寄せてしまう。後味は良くないのですが、一つの悪事からすべてが崩壊していく連鎖を見事に描いています。

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