02
2016

パワー・ゲーム

PARANOIA / 2013年 / アメリカ、インド、フランス / 監督:ロバート・ルケティック / サスペンス
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アメリカ人であることの大変さ。
【あらすじ】
産業スパイになって情報を盗むぞ。


【感想】
IT企業ワイアット社に勤務するアダム(リアム・ヘムズワース)。出世の機会を虎視眈々と狙っていたが、ついにCEOであるニック(ゲイリー・オールドマン)の前でプレゼンをするチャンスが与えられた。せっかくのチャンスだったが、プレゼンでニックに盾ついたことから、チーム丸ごと首にされてしまう。ごっそりいきましたね。さすがアメリカ、容赦がない。

やけになったアダムは、まだ返却してない会社名義のクレジットカードを使い、クラブで仲間と豪遊。ところが翌日、ニックに呼び出されてカードの不正使用を追及される。訴えられたくなければ、ライバル社に潜入して情報を盗むよう命じられる。

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ひょんなことから産業スパイになってしまった男のサスペンスなのだけど、あんまりスリルはないんですよね。それよりも、彼がなぜ道を踏み外したかという原因に重きが置かれている。この映画は、経済格差、医療保険、倫理なき大企業といったアメリカが抱える社会問題が下敷きになっている。そのせいか、地味であまり爽快さがないのかな。

ニックの家はブルックリンにある。警備員の父親(リチャード・ドレイファス)は貧しいながらも愛情をもってニックを育てあげ、大学まで行かせてくれた。母親は治療費が払えずに病気で亡くなっている。父親も病気がちで、たびたび病院のお世話になっている。保険会社が契約を一方的に見直したため、父親の治療費として400万円も請求されてしまう。

アメリカの自己破産の原因の6割は医療費が原因。そのうち、保険加入していた人も8割いたがそれでも破産しているという記事もある。アメリカには最先端の技術がありながら、アメリカで病院にかかることは難しいという滑稽さ。富める者はより富み、貧しき者はより貧しくなる。階層は固定化され這い上がることは難しい。ニックの給料もずっと上がっていない。

アダムがクラブでナンパし、一夜を共にしたエマ(アンバー・ハード、右)が最高でしたね。

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エマのアパートに泊まった翌朝、アダムは慌ただしく彼女のアパートを追い出される。彼女の名前も知らずに寝たので、せめて名前だけでも聞こうとするアダムだったが、エマは「は? おまえ、川の向こう(ブルックリン)の人間だろ? 名前を教える必要ない」みたいなことを言うのだった。ひええええ! 言える? こんなひどいこと。たまりませんわー。ヒールでわたしの眉間をグリグリ踏んでほしい。

ブルックリンとマンハッタンは隣り合っているが、二つの地区はイーストリバーという川で隔てられている。所得格差という深い川が。面白かったのは、エマの侮辱的な言葉に対しアダムがまったく怒らないところだった。ちょっとヘラヘラして、彼女にコーヒーを差し出したりして。これはどういうことなのだろうと思ってしまった。

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富裕層=悪、貧困層=善というわけでもない。この映画では、富裕層も貧困層も「お金が第一」という価値観を共有しているように見える。アダムは清貧でもなんでもなくて、自分が富裕層になったら同じことをするのではないか。だから、彼はエマの侮辱的な言葉にまったく反応しない。

もう一つ興味深かったのは潜入先の会社でのこと。アダムは、今一つ使い道のない技術の売り込み方を見つけるように上から命じられる。アダムはその技術が軍事用に使えることに気づき、軍への売り込みを提案する。アダムの考えは会社で評価され、彼の評判は上がる。軍に売り込むということは、その技術が戦争に使われれば人の命を奪うことに関わる。ちょっと疑問だったのは、アダムはそのことに対してなんの躊躇いもないのだ。技術そのものに善悪はなく、技術は価値中立的立場をとるという考えには同意するのだけど。それでもやっぱり自分の関わったものが戦争に使われたら、テロ対策に使われたとしても人の命を奪ったらと少しは考えるのではないか。アダムはまったく懊悩しない。あ、いい使い道思いついたわという程度なのだ。

そんなこといちいち悩んでたら仕事にならんだろといえばそうなんだけども。悩んだ結果「儲けたいから売る」ならいいんですよ。悩みすらしないって、実はすごく怖いことに思える。

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アメリカを牛耳る富裕層の倫理観のひどさを描いたのかと思っていたがそれだけではなくて、実は貧困層も同じ価値観を共有しており、彼らだって富裕層になれば同じことをやるのではないか。アメリカは貧困層も富裕層もモラルが崩壊しているということを描いたのかな。

珍しく丸刈りのハリソン・フォード(左)、ゲイリー・オールドマン(右)、名優同士の対決もありますがやはりちょっと地味なのだった。うーん、風刺が強すぎるのかな。アメリカの現状に対する憤りが強く感じられて、話の面白さがそれほどという。

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終わり方にもカタルシスはなかった。ハリソン・フォードとゲイリー・オールドマンが経営する企業をうまいこと壊滅させたアダムは、あらたに自分の会社をブルックリンに起ち上げる。「成功に王道はないんだ」と、真面目にやっていく決意をする。

だけど「成功=金」以外の価値観は手に入れたのだろうか。彼の犯行動機の一つになった父親の医療費400万円の問題は解決したのだろうか。監督は、あえて観客にカタルシスを与えなかったのかもしれない。だって、経済格差、医療保険、崩壊したモラルといったアメリカの問題は何一つ解決してないのだから。

アダムの恋人エマを演じたアンバー・ハードが良かったですねえ。ケンカが強そうで、ちょっとエラが張ってて。オリヴィア・ワイルドもそうですが、わたし、将棋の駒みたいな顔した人が大好きなんですよねえ。

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