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2016

ダーウィンの悪夢

DARWIN’S NIGHTMARE / 2004年 / オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ / 監督:フーベルト・ザウパー / ドキュメンタリー
クリップボード02
グローバル化は本当に悪か。ドキュメンタリーに潜む陥穽。
【あらすじ】
ナイルパーチによって巻き起こされる連鎖。



【感想】
アフリカ東部に位置し世界三位の湖水面積を誇るヴィクトリア湖。1950年代に放流されたとされる巨大魚ナイルパーチ。全長2メートル、体重は200キロまでになる大型淡水魚である。ナイルパーチはヴィクトリア湖にそれまで住みついていた魚を駆逐し、たいへんな勢いで増えた。淡白な白身は人気があり、海外に食用として輸出される。ヴィクトリア湖周辺に魚を加工するための工場が立ち、人々の生活を潤した。

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が、いいことばかりでもない。ナイルパーチを輸出するためEUなどから飛行機が来る。この飛行機には、アフリカの紛争で使われる武器が積まれているという噂がある。パイロットたちは積荷について「よくわからない」と口を濁す。

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栄えたヴィクトリア湖畔には漁業キャンプができ、彼らの相手をするために売春婦も集まった。漁業キャンプにはエイズが広がり、働けなくなる者も多い。教会の牧師は、宗教上の理由から避妊具はすすめられないと言う。街にはストリートチルドレンが目につく。エイズで親を亡くした者、貧困により捨てられた者、彼らは一握りのご飯を奪い合って殴り合いのケンカもする。

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ナイルパーチの切り身は値段が高く、地元民には手が出せない。切り身をとった残りの頭や尾が地元民に売られている。

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ナイルパーチの残骸から噴き出すアンモニアガスで、目玉が落ちてしまった女性もいる。だが、彼女は「今までより暮らしはよくなった」と言うのだ。はたして本当だろうか。ナイルパーチの主な輸出先はEU、そして日本である。


というですね、大変重たいドキュメンタリーなのだった。で、ちょっと変わった人が出ていたのが気になった。漁業研究所の警備員。もうね、この人は顔面の迫力がすごい。目の血走り方とか怖いのよ‥‥。

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前任者がナタで斬り殺されて、それで夜警の職に就くことができたという。ナタて。えらいハードな職場ですね。不思議なことに銃ではなく毒矢で警備をしている。そのオリジナルの武器を持ち込むとか、ありなのかしら。

この人のコメントが変わっていて「戦争があれば金になる。みんな、戦争をのぞんでいる‥‥」って言うんですよ。いやいや、それはあまりに偏った意見なのではないかと気になった。タンザニア人の大部分がこう考えているとは思えない。この人の存在から、作品にちょっと偏りがありすぎるのではないかと感じた。ドキュメンタリーだから映っていることがすべて事実ということではない。情報は編集した者の主観によって選択される。そもそも、客観というものは存在せず主観しかない。監督もインタビューの中で、次のように語っている。

「客観的にこの映画はアフリカの現実をそのまま映し出しているのですか?」と聞かれれば「NO」と言わざるを得ません。これは「アフリカの現実をそのまま」というのではなくて、「私の目を通して見たアフリカ」が描かれていますから。(公式サイト

監督はあらかじめ作り上げた自分の中の仮説に沿って撮影を行うのだろう。グローバル化によって先進国からはブルーカラーの仕事が奪われ、発展途上国に流れた。だが、発展途上国の人間がすべて平等に救済されるわけではなかった。たしかに一部の企業や有力者は豊かになった。しかし、貧富の差は拡大し、女性や子供などの弱者はさらなる被害を受けている。湖の生物はナイルパーチに食い荒らされ、生態系は破壊される。欧州からは武器が運び込まれている疑惑がある。

この仮説は、確かに正しい面もあるのだろう。ただ、現地の旅行社ジャパンタンザニアツアーズのサイトを見ると、このドキュメンタリーが丸々正しいとも思えない。現地の雇用30万人が発生しているともあるし、それは大きな成果だろう。生態系の破壊もナイルパーチが大きな要素としてあるにしろ、ムワンザ市の人口増加による生活排水、森林伐採、工場の煤煙、農業用水の汲み上げ、ホテイアオイの繁茂などの理由も挙げられているのだ。

やや問題の取り上げ方が自説によりすぎているように感じた。ただ、単純にグローバル化が善だ悪だというわかりやすい話ではないように思える。だが、このドキュメンタリーがすべて誤っているとは思わない。一面では正しいのだろう。映画ならばまだ「フィクション」だと頭にあるが、ドキュメンタリーはついうっかり鵜呑みにしてしまいがちで難しいですね。2時間という制約があるので、すべてを取りあげるのが難しいのはわかる。だけど、一部の経営者だけではなく、莫大な雇用をもたらした水産加工業の恩恵を受けた人々について、もう少し掘り下げてほしかったです。

なんでもかんでも一本のドキュメンタリーでわかろうというのが土台無理なわけで、ドキュメンタリーも「誰かの目を通したフィクション」と思って観るべきなのかもしれません。情報をどのように受け止めるか、その難しさを感じた一本でした。もっとアフリカについて知りたくなりました。


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