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2016

ある過去の行方

LE PASSÉ / 2013年 / フランス、イタリア、イラン / 監督:アスガル・ファルハーディー / ミステリー、ドラマ
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誰しも少しずつ罪を犯している。
【あらすじ】
奥さんの自殺の原因とは?



【感想】 
お互いの子供を連れて再婚しようとする男女。だが、男には植物状態となっている妻がいた。妻が植物状態になった理由をたどるうちに、各自が隠していた秘密が明らかになってくる。

いやあ、もうモヤモヤする作品を撮らせたら、この人の右に出る人はいないというアスガル・ファルハーディー監督です。前作「別離」からモヤモヤ感はパワーアップしておりますよ。「別離」では宗教やイランという国の問題について大きく取り上げられていましたが、今回はそこらへんは薄めですね。ミステリーなのですが、トリックどうこうではなく家族が抱える心の葛藤に焦点が当たっている。

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4年前に別れた妻マリーから呼び出され、離婚手続きを行うため、イランからフランスへやってきたアーマド(アリ・モサファ)。前半はアーマドを軸にして物語が展開する。しかし、別れた妻の家を訪れるってどんな気分なのだろう。妻の家には、新しく再婚しようとする男が出入りしているのだった。来たくないだろうなあ。ほんとに来たくないだろうなあ! 勝手に感情移入した。

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気さくで温厚なアーマドは、すぐに子供たちと打ち解ける。男の子は、妻の再婚相手サミールの子なんですね。娘はアーマドに懐いており再会を喜んでくれる。だが、実の娘なのか、妻の連れ子なのか説明がなくてわからない。奥さんはすでに2回離婚しているのかな。かなり複雑な家庭。

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こちらいろいろと問題を抱える妻マリー(ベレニス・ペジョ)。美人で気が強く、ヒステリック。子供を愛してはいるが、まだまだ自分の恋愛もしたい。わかるような気はする。気はするのだけどー。あまり子供の気持ちを考えているようには見えない。あと、かなり喧嘩っ早いですね。揉め事の中心にいつもいる。揉め事を積極的に製造していく。

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マリーの再婚相手で、クリーニング店を経営するサミール。妻は自殺未遂から植物状態となっている。フランスでは植物状態となった伴侶と離婚できるのだろうか。よくわからんけど。この人もちょっと気が短いんですよねえ。気が短い人が出ると、話が滅茶苦茶になるので歓迎だ! がんばれ。

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サミールの子。すぐに癇癪を起こす難しい状態。癇癪の起こし方も微笑ましいものじゃなくて、観ていて苛立つようなもの。子供の嫌な部分をうまく出している。

ただ、癇癪の原因は大人たちにある。アーマドが家に来たので、この子は寝る場所を変えるようにマリーから言われる。マリーは二階で寝ろと言い、布団を抱えて二階に行けばアーマドから一階で寝ていいと言われる。大人の矛盾した指図に従うしかないんですね。たいして意味のないやりとりのようですが、大人の身勝手さを端的に表したエピソードに見える。

監督は、こういったちょっとした心の動きを表す描写が上手い。マリーが、再婚相手であるサミールと車に乗る場面。運転するサミールの右手はシフトレバーの上にある。サミールの手にマリーは自分の左手を重ねている。マリーは強気だが少し依頼心が強いのか、サミールに甘えたいところがある。サミールはシフトレバーを動かしたときにマリーの手をどけるのだけど、それは振り払うというほど乱暴でもない。運転をするのにちょっと邪魔だからというフリをしつつ、でも今は自分に触れないでほしいぐらいの絶妙な強さで振り払う。二人の関係を破綻させるような強さじゃないんですね。この繊細な仕草で、二人の間の距離感をうまく表している。

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にしても、一つの家に二人の男はきついですね。表面上仲良くやっていても、子供への教育方針の違いでちょっと揉めたりね。しかも、元夫アーマドは最初はホテルに泊まる気だったのに、そうさせなかったのはマリーの作戦なのである。再婚相手との幸せを見せつけて復讐したいという。恐ろしい女よ。でも、アーマドのことがまだちょっと好きなのだ。とにかく困ったお人。もう、これだから美人は‥‥たまらん!

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マリーの娘リュシーは、サミールの妻が植物状態なのに二人が結婚しようとすることに納得できない。なぜ植物状態になったか、その原因をアーマドに調べてほしいようなのだ。アーマドはリュシーと共にサミールの妻の自殺の理由を探っていく。次々に明かされる秘密により、事態は二転三転していく。

何か悪いことが起こるとき、原因は一つとは限らない。誰かが100%悪いなどという単純なことは少なくて、悪い偶然が重なったり、みんなに少しずつ過失があったりということがほとんどだろう。この映画もそれぞれの過失が重なり合って大きな事故に繋がっている。もっとも、その原因の大部分はマリーとサミールの不倫にあるのは間違いないのだけど。

そして「本当のことは何もわからない」というのが、とても重要なことに思える。自殺に間接的に影響した洋服の染みも、誰が付けたかはわからない。ペンキの缶を倒したとしてサミールの子が怒られるがこれも本人は認めてないんですね。アーマドが4年前にイランに帰った理由も明かされない。そして、妻の自殺の理由も。本当のことは何もわからない。ただ、周りの人間がそう信じたい理由を見つけて納得するだけなのだ。

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最後、妻の一筋の涙と握り返した手で、妻がサミールを愛していたことは伝わる。でもそれが救いになるかというと‥‥。救いなどないのかもしれない。喫茶店のおじさんが言っていた「それでも人生は続いていく」という言葉が印象的だった。


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