02
2016

暮れ逢い

A Promise / 2013年 / フランス、ベルギー / 監督:パトリス・ルコント / ドラマ
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焦らされて、焦らされて。ただひたすらに焦らされて。
【あらすじ】
社長の奥さんのことが好き。



【感想】
舞台は1912年のドイツ。1914年から第一次世界大戦がはじまる。とても緊張に満ちた時代。なぜドイツが舞台かといえば、原作となった短編の作者シュテファン・ツヴァイクがドイツ人なんですね。役者は全員英語で話してるけども。

大学を首席で卒業した才気あふれる青年フリドリック(リチャード・マッデン)は、実業家ホフマイスターの会社に就職する。当時の貧富の差は今よりも激しい。資産家は豪邸に住み、主人公は明かりも十分に入らない屋根裏部屋に暮らしていた。

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優秀なフリドリックを気に入り、目をかけるホフマイスター社長(アラン・リックマン)。ハリー・ポッターシリーズのスネイプ先生の印象が強い。この作品では頑固だけど情に厚いイメージ。

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ずいぶんテンポが良い作品ですね。ホフマイスターはスープが嫌いなのだが、フリドリックが帰宅したとき、恋人に対して自分も「スープが嫌い」と言ってみせる。この短いやりとりだけで、フリドリックがホフマイスターに心酔したことを現している。無駄がない。

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社長と歳の離れた妻ロット(レベッカ・ホール、右)。フリドリックにも恋人はいるものの、上流階級の貴婦人の美しさに面食らう。フリドリックは順調に社長からの信頼を獲得し、ロットからは子供の家庭教師を頼まれることに。やがて社長の家で個人秘書として働くようになる。引っ越しを機に恋人とも疎遠になる。

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禁断の恋によろめく二人、そうなるかと思いきやならない。なかなかよろめかないんですよ。現代では知り合ったその日に寝ることだって有り得る。出会った瞬間に、もうパンツを脱いでいることも多い。そんな変質者ばかりの現代人と違って、ずいぶんと慎みがある。時代ということかな。

さらにフリドリックは強い倫理観を持っているように見える。貧困から救い出してくれた社長に恩を感じてもいる。子供の家庭教師代という名目で、お金を渡そうとするロットの気遣いを拒む矜持もある。貧しくとも、同情からのお金は受け取らない。ちゃんとした人なんですよね。

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とはいえ、一つ屋根の下に暮らしていればお互いへの想いは募ってくる。「お、お、奥さん!」「いけませんわ、わたしには主人が!」という展開が来そうで来ない。どこまでも焦らすなあ。みんな頑張って一線を越えないようにしております。立派だなー。本当に立派だなー‥‥。超えないの?

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この映画でもっとも感心したのは社長の存在だった。彼は、フリドリックと妻がお互いを想っていることを知っている。だが、嫉妬から認めることができない。それを病床で妻に詫びる。

「君たちの仲を引き裂いてしまった」
社長のほうが結婚しているんだけども。そんなに遠慮しなくてもいいのに。社長は二人を責める様子もない。自分が愛した人が幸せになることを一番に考えている。それで自分が選ばれなかったとしても仕方のないこと。それが監督の考える愛なのだろうか。いやあ、アラン・リックマンが実にいいところを持ってきましたねえ。恋では敗れたけど、作品全体としてみれば勝者になっている。



タイトル「暮れ逢い」について
原題は「A Promise」(約束)。「暮れ逢い」という日本語を知らなかったので広辞苑を引いたところ、そんな言葉は収録されていなかった。大辞林を引いたら「暮れ合い」という言葉がある。日が暮れるまでのひとときを指す言葉だった。

妻ロッテが身に着ける香水はルール・ブルー。「化粧品メーカー、ゲランの三代目調香師ジャック・ゲランが、黄昏時に太陽が沈む瞬間、すべての自然が青い光で包まれた光景を見て感動したのがきっかけで作られた」(公式サイト)とある。

ルール・ブルーも暮れ合いも、日が暮れるまでのひとときを表す。ロッテはふだんは夫のものだが、フリドリックと過ごす短いひとときだけ、彼のものになることと掛けているように思える。「暮れ逢い」という言葉はないが「暮れ合い」の「合い」を「逢瀬、逢引き」などの「逢い」と掛けて、新しい言葉を作ったのだろうか。掛けて掛けてでひねりまくった結果、なんだかとってもわかりにくいような。


しかし、不倫や浮気の話というのは難しい。恋愛物ならば、二人が結びついてハッピーエンドで良かったねという気分になれる。だが、不倫などの場合、どうやったって主人公側に正しさがない。そうすると、伴侶がどうしてもひどいやつで、その伴侶から彼(もしくは彼女)を救い出してやるのが不倫物の正当性になりそうだけど、この映画は伴侶役の社長がとてもいい人なんですよね。主人公に目をかけてやり、自分の会社で重要な位置に据え、信頼して同居までしている。妻と主人公の気持ちを知って、二人を一緒にさせてやりたいと思いつつ、嫉妬にも苦しんでいる。もう、社長ゴメン! としか言いようがないのだった。モヤモヤする。



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