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2016

紙の月

2014年 / 日本 / 監督:吉田大八 / サスペンス
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愛はお金で買えますが、品質は保証しかねます。
【あらすじ】
地味で真面目な銀行員が横領を繰り返します。


【感想】
桐島、部活やめるってよ」「パーマネント野ばら」の吉田大八監督作品です。

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久しぶりに宮沢りえを観ましたが、なんだろう、独特の雰囲気が出ていましたね。とても役に合っていたように思います。バブル崩壊直後の1994年。銀行の契約社員として働く地味な主婦梅澤梨花(宮沢りえ)。真面目だった女が、年下の愛人を囲い、横領した金で派手に遊びまわる。その転落は、あっという間のことだった。

梨花の性格の描き方にとても巧みなものを感じた。彼女が夫・正文(田辺誠一、右)に、自分の安月給で買ったペアウォッチの片方をプレゼントする場面がある。夫は、性格は悪くないが無神経な人間なんですね。妻のせっかくのプレゼントも、仕事に着けていくには向かないからゴルフのときに着けるという。

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それだけならまだしも、夫は梨花の誕生日に高級腕時計をプレゼントする。「二人で着けて一緒に仕事をがんばろう」という気持ちで買った梨花のペアウォッチなど、なかったように扱われてしまう。天然だから許されるという話ではないだろう。梨花は「ちょっと、それないんじゃないの」って、言えない人なんですね。普通の夫婦なら言えると思うんですよ。言って喧嘩になったとしても、それはそれでいいのだけど。すごすごと引き下がってしまう。

夫の態度の端々が、あからさまではないにしろ梨花を見下している。こういうの、いくら隠そうとしても態度に出ますからね。自分の仕事の重要さ、年収などを鼻にかけている。自分の転勤にしても、梨花が仕事を辞めて付いてくるのが当然と思い込んでいた。

梨花が時計を買ってくれたことに対して「君の給料なんだから、君が自由に使えばいいのに」という言葉も、優しさに見える反面「君の稼ぎは少ないんだから、どっちでもいいのに」という意味にもとれる。梨花は繊細なので夫の態度によって傷つけられてしまう。お金を第一に考える夫の価値観、お金によって傷つけられているともいえるのかな。

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夫と心がすれ違ったまま、顧客である平林孝三(石橋蓮司)の家で孫の光太(池松壮亮、左)に出会う。まあ、こいつが本当にどうしようもない。母性本能をこれでもかというぐらいくすぐってくるのです。子犬のようなつぶらな瞳。気弱そうに見えて強引な性格。た・ま・り・ま・せ・ん! いったん落ち着こう。

出会ってすぐに体を重ねてしまう梨花。あまりに早い展開が疑問だった。梨花は、幼少の頃に発展途上国の子供に多額の寄付をした体験でもそうだが、与えることに快感を覚える性格なのだろう。夫は、梨花が与えるには何もかも持ちすぎているし、感謝もしてくれない。そこに何も持っていない光太が現れる。まず始めに梨花は体を与え、光太が学費に困っていることを知ると、今度は横領を行ってまでもお金を与える。

「人から感謝されることが好き」とか「人の役に立ちたい」という、他人を介して自分の存在意義を確認する人たちがいる。それは不自然なことではなくて、誰だってそういう感情はあるだろう。だが、梨花の行為は明らかに行き過ぎている。もはや与えることが中毒のようだ。

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梨花の周囲を固める人間もよかったですね。梨花の同僚相川(大島優子、右)。梨花に「わたしのこと(横領しないように)監視してくれませんか」などと冗談交じりにいう。何も考えてなさそうに見えて、お金が人を狂わすことをわかっている。不倫していた上司をあっさり捨て、手堅い公務員を選んで地方へ帰ってしまう軽快さは鮮やかだった。大島優子さんが本当にピッタリはまってましたねえ。

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恐怖のお局さま、銀行員たちから恐れられている隈より子(小林聡美、左)。もう完璧な仕事ぶりに惚れますよ。手順を省略したり、ミスしがちな相川をきちんと注意する。相手が上司でも疑問があれば問いただす。仕事のためなら嫌われてもいいという人間がいないと、組織は駄目になっていくんでしょうねえ。

彼女の完璧な性格によって、梨花の横領は暴かれていく。ばれてほしいのか、ばれてほしくないのか、少し混乱してしまいました。梨花は上司に横領がばれた際、相川との不倫を黙っていることを交換条件に事件を伏せることを要求する。上司は渋々、条件を呑む。

一か月後に横領した金を返済する約束はあったのだけど、それでも隈より子が上層部に横領の件を報告しなかったのが不思議に思えた。これはマズイですよ‥‥。実際、あとになって横領額が莫大だったことがわかるわけですし。組織はこうやって腐るのだろうか。

銀行という身近でありながら見えにくい組織の内部が描かれていたのも良かったですね。それにしても、この映画に出てくる銀行は楽しくなさそうだなー。退職勧奨、不倫、横領‥‥。問題ばっかりの銀行だな。どこにでもあることなのかもしれないけど。

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横領がばれた後、銀行を逃げ出す梨花はなぜか楽しそうだった。あらゆるしがらみから解放されたように活き活きと走っている。あの表情はなんだろう。彼女が金で買った贅沢な暮らしは、すべて偽物だった。いつか破綻することがわかりきっていたけれど、それでもやめることができなかった。

「終わりがくるってわかっていた」というのは年下の愛人光太の言葉だけど、それならなぜこんな無茶な暮らしを続けたのだろう。当初は真面目に見えた光太も、いつしか贅沢になれ、年上のホテルマンに横柄な態度をとるまでになってしまった。お金で、幸せも含めたあらゆるものが買えると思ったり、終わりがくるとわかっていても突っ走ってしまうというのはバブル時代への批判なのだろうか。

梨花は逃亡先の海外で一人の男に会う。彼女が子供の頃にお金を送った発展途上国の子供だった。彼は大人になって果物を売っていた。梨花は、何も気づいてない男から果物を一つもらう。そこには見返りのない善意のみがあった。お金、善意などを見つめ直すのにいい作品だと思いました。



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2 Comments

R  

No title

NHKで、原田知世さん主演でドラマをやっていて、そちらを観ましたが、知世さんバージョンもなかなか良いですよ。

映画だと2時間くらいに収めるから展開が早いのでしょうね。。たぶん。

あと、小林聡美さんでいうと「すいか」というドラマで信用金庫のOLやってて、それを思い出しました。
もしレンタルにあれば「すいか」はオススメです。夏だし。

2016/07/23 (Sat) 10:01 | EDIT | REPLY |   

しゅん  

No title

やや! Rさんじゃないですか。
お元気ですか。ポテトチップス食べてますか。


>NHKで、原田知世さん主演でドラマをやっていて、そちらを観ましたが、知世さんバージョンもなかなか良いですよ。

原田知世さんが犯人役をやるのって珍しいですね。
あまりイメージにない役なので、どんなふうだったか興味があります。
それと、映画はちょっと駆け足に感じたので、ドラマでじっくり描くとどうなるか観てみたいです。


小林聡美さん、良かったですねえ。
本当に何をやってもピタリとはまっていて。
小林聡美さんの役は原作にはないらしいですが、存在感がすごかったです。
上司(近藤芳正さん)は不倫ばっかりしてあてにならないから、小林聡美さんと宮沢りえさんで対決している感じがありました。


「すいか」探してみますね。
ありがとうございます。

2016/07/23 (Sat) 21:21 | EDIT | REPLY |   

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